誰でも、一人や二人、苦手な人がいるはずだ。ただ、その人が会社の上司や取引先の人だったり、親戚や仲間内にいたりすると、まったく付き合わないというのは難しい。そんな気が重くなるような付き合いを、少しでも軽くする方法を教えてくれる本がある。執筆家である四角大輔氏の著書『超ミニマル・ライフ』だ。本書では、著者が厳しいビジネスシーンを生き抜く中で身につけた処世術を紹介している。本記事では、本書の内容をもとに「重い人付き合いを軽くする方法」について解説する。(構成:神代裕子)

超ミニマル・ライフPhoto: Adobe Stock

心に重くのしかかる、苦手な人との付き合い 

 社会人、特に会社員の場合は一緒に働く相手を選ぶのは難しい。

「この人とは合わないなあ」と思う人がいても、「あなたとは合わないので、一緒に仕事をするのをやめましょう」とは言えないのがつらいところだ。

 もちろん苦手な人が、ママ友や親戚など、諸々の事情で縁を切るのが難しい相手の場合もあるだろう。

 そういった人たちとの付き合いは、いつだって私たちの心に重くのしかかる。

 アドラー心理学でも、「すべての悩みの原因は対人関係にある」と言われている。

 人付き合いは、私たちの生活や人生に大きな影響を及ぼしているのだ。

 筆者も会社員時代は、人付き合いにはかなり悩まされた。

「この人、苦手だなあ」「どうしてこういうことを言ってくるんだろう」と思う相手と仕事をするのは、かなり気力を使う。時には、夜眠れなくなるようなこともあった。

 だから、フリーランスになった時、自分が苦手だなと思う人とは付き合わなくてもいいことが、何よりもうれしかったのを覚えている。

“重い人付き合い”を軽くする方法とは

 とはいえ、誰もが会社を辞められるわけではない。「あの人との付き合いさえどうにかなれば、他は問題はないのに」というケースも多いだろう。

 そんな人は、ぜひ本書が勧める「“重い人付き合い”を軽くする3つのティップス」を試してほしい。

 著者の四角氏は、ソニーミュージックに入社し、社会性も音楽知識もないダメ営業マンから、異端のプロデューサーになり、削ぎ落とす技法で10回のミリオンヒットを記録した人だ。

「元々、人付き合いが一番の苦手だった」と語る四角氏が、音楽業界という競争が激しく、厳しい世界を生き抜く中で身につけた処世術が次の3つの方法になる。

1. 言葉をソフトに変換する

 四角氏は、「口にする言葉はあなたの感情や思考パターン、行動に大きな影響を与える」と指摘する。

 そのため、少しでもポジティブな言葉に変換するだけで、その人に対する「記憶領域での解釈」を、いい方向に書き換えられるという。

どうしても好きになれない「嫌いな人」を「ニガテな人」と、表現を変えてみよう。漢字の「苦手」じゃなく、片仮名の「ニガテ」にしているのは、こちらの方がよりソフトな印象になるからだ。(中略)
こういった脳内作用のことを、認知科学では
「プライミング効果」と呼んでいる。
「ニガテ」という言葉を繰り返し使っているうちに、「嫌い」という荒い感情が鎮まり、遂にはその人への態度さえも軟化するようになるからおもしろい。(P.258-259)

「嫌いだ、嫌だ」と思い続けると、それが態度にも出てしまい、より関係性が悪くなる原因になってしまうのかもしれない。

「仕事ができないヤツ」を「ときどき抜けちゃう人」などと言い換えることで、怒りやネガティブな黒い感情が薄まるそうだ。

 もし、今あなたにニガテな人がいるならぜひ試してみていただきたい。

2. 心の距離を置いてみる

 これは、ニガテだと思う人をできる限り避けてみる方法だ。

 避けると言っても、無視をしたり、顔を一切合わせないようにするわけではない。

 話題に出さない、悪口を言わないといったことを徹底することで、その「ニガテな人の存在」を頭から消し去って、「心の距離を置く」のだ。

 そして次に、深刻な顔をせず、にこやかな表情で軽快に愚痴るようにしてみる。

 その際、そのニガテな人のキャラに合わせて、かわいいニックネームを決めて「ちゃん」や「くん」を付けて話すことを、四角氏は推奨する。

話の導入部分がポイントとなる。例えばこんな感じで。
「ねえ聞いて~例のジャイアンくんがね~」
この導入の「ねえ聞いて~例の○○くん(ちゃん)がね~」を固定フレーズにして笑顔で愚痴に入ることができれば、いいテンションで話すことができ、心は一気に軽くなる。当然、毎回愚痴を聞かされる相手も気が楽になる。(P.260)

 ニガテな人のことを少し「おもしろがる」ような感覚だろうか。

 確かに、呪詛を吐くような気持ちで愚痴を言うと、その後は自分の気持ちも重くなる。それを回避できる良い方法かもしれない。

3. 物理的な距離を置いてみる

 これは、物理的に「ニガテな人には近寄らない」方法だ。

職場であれば、ニガテな人のデスクの真横を通らないルートを選び、用件は対面ではなくメールに徹してみる。親戚や仲間の集まりであれば、その人の隣に座らないようにし、やりとりが必要な時はチャットで済ませる。
直接話をせざるを得ない時は、伝えることを事前に最小限にまとめておき、話す時間を1秒でも短くすべく努める。(P.261)

 確かに、ニガテな人には関わらないで済めばそれに越したことはない。

 幸い、今はさまざまなコミュニケーションツールがあるので、テキストでのやりとりを心がければ、直接話すよりは気が楽だろう。

 ただし、ここで重要なポイントは「徹底的に礼節は尽くすこと」と四角氏は指摘する。

「いい挨拶」と「いい返事」は絶対で、一切の隙なく気持ちよくやってしまおう。当然、できる限り明るい笑顔で実行すること。瞬間的なことだから誰でもできるはず。(P.261)

 論語にも「敬して遠ざく」という言葉がある。距離を取ることと、敬意を表すことは別なのだ。

 そして、礼節を尽くしていれば、「失礼だ」「態度が悪い」と不興を買う心配もない。揉め事のきっかけをつくらない、大事なポイントだと言える。

「型どおりの礼儀作法」は最強の鎧

 四角氏は、日本の「型どおりの礼儀作法」を「最強の鎧」とすることを勧めている。

 失礼のない完璧な礼儀で接することができれば、あなたの「ニガテ意識」が相手に伝わることはないからだ。

 人は、社会とつながっている以上、好きな人とだけ付き合うことは難しい。

 筆者のようなフリーランスでさえ、ニガテな人との関わりがまったくないとは言えない。

 そうした人たちともうまく付き合いつつ、自分の心を守るこれらの方法を知っておくと、きっと役に立つはずだ。

 本書には、他にも「どうでもいいことに注ぐ労力・お金・時間を最小化して、あなたの可能性を最大化する」ための合理的な人生戦略がたくさん載っている。

「軽やかに生きたい」と感じている方は、ぜひ手に取ってみてほしい。