そこで立案されたのが、日本に奇襲攻撃を仕掛けて、米国と連携する暇がないほど素早く、必要な地域だけを占領し、そこに「日本人民共和国」を打ち立てるという戦略でした。
 
「そんなことが可能なのか?」と皆さんは思われるかもしれません。そこは本書を読んで確かめてほしいのですが、日本の自衛隊法や有事法制では(現在では10年前から相当改善されていますが)、奇襲攻撃を受けてもすぐに反撃できるわけではないのです。できるのは、自らが撃たれた場合に自衛のために反撃することだけ。ロシアがどこを狙っているかがわかっても、それに対して自衛隊独自ですぐに反撃部隊を展開することも不可能で、政府の判断が必要となります。

 本書では政府の決断に3日以上かかると試算しており、決断の後にようやく部隊移動や弾薬の集積ができるため、ロシアの目論見は半ば成功してしまいます。

 ロシアが北海道の北部、稚内から根室に至るオホーツク海沿岸を占領すれば、オホーツク海沿岸はすべてロシア領となり、ロシアの原潜は自由に動けることになります。もちろん、自衛隊もロシアにその意図があることは十分計算に入れてはいるのですが、ロシアに比べれば兵力が不足しています。

 北海道北部では、音威子府村(おといねっぷむら)付近でロシアを迎撃する作戦が既定路線でした。唯一の大きな戦車師団は、あくまでもそこでロシアの戦車を迎撃するだけという計画で、反撃は米軍頼み。これが自衛隊の実力なのです。音威子府は、日本で一番人口の少ない村であり、仮に戦闘が起こっても、民間人への被害を最小限に抑えることができます。

 一方、ロシア軍にも弱点は山ほどあります。まずは強襲揚陸艦という上陸作戦に不可欠な艦船が絶望的に少ないこと。砂浜に乗り上げ、船の前が開く仕掛けになっている上陸用舟艇に戦車や大砲を載せ、一気に浜辺に強力な部隊を展開するのが上陸作戦の常識ですが、その数が不足しており、自衛隊と米軍の陸上部隊が派遣されたときに突破できるほどの兵力を、一気に上陸させることはできません。

日米安保の穴を突かれ
北海道北部は3日で陥落

 しかし、ロシアも日本の法律や日米安保条約をかなり研究していました。彼らの結論は、3日で北海道の北部(自衛隊が防衛戦を構築しているラインより北部)のみを占領する。3日間だけなら、日本政府が反撃するかどうかの議論に時間を費やしているだけで、自衛隊は何もできない。日米安保といっても、米国の基地を直接攻撃しない限り、米軍がすぐ戦闘に加わることもできないだろう。いや、本気で戦おうとしない自衛隊のために血を流すことをためらう可能性のほうが高い。