戦局を握る原子力潜水艦
そのとき日本が邪魔になる……

 とはいえ米国に比べてロシアは、原子力潜水艦による報復において地理的に不利です。まず、不凍港を領土内にあまり持っていません。冬に先制攻撃を受けた場合、潜水艦が十分に動けない可能性があるのです。そこで大事なのが、日本海から太平洋に抜けるルート。ロシアにとって核戦争になる前に、原子力潜水艦をウラジオストックの港から太平洋に出し、米海軍が捕捉できないようにすることが重要なポイントになります。

 しかし、その前に立ちはだかるのが日本列島です。たとえば、北海道と本州の間の津軽海峡の海底には大量の海中集音マイクが埋められていて、潜水艦の動向は全て把握されています。もちろん、樺太や北方領土と北海道の間にも非常に細かい警戒線が張られていて、ロシアの原潜の音紋はすべて把握されています。

 独特のスクリュー音によって海底の潜水艦の敵味方や艦種を識別し、どんな性能があり、攻撃するにはどんな手段があるかを判断するには、この音紋データが不可欠です。

 ロシアは、黒海やバルト海、北極海に軍港を持ちますが、冬の活動は厳しく、外海に出るには狭い海峡を外国の監視下で動くしかないので、米海軍と比べて相当不利なのです。

 もし全面核戦争になった場合、地上の基地は双方がすべて把握し合っているので、すぐに潰される。頼りになる反撃能力は、太平洋など広い海に潜んでいる原子力潜水艦による大陸間弾道弾となります。

 現在は、台湾有事が叫ばれ、中国との軍事力の問題ばかりが議論されていますが、ロシアの保有する核爆弾の量は、中国と比較にならないほど大量です。核戦争ということに限れば、いまだにロシアは米国と共に、世界で最も恐ろしい国の一つなのです。

 そして海上自衛隊は、「自衛隊」と名乗ってはいますが、実際には米海軍と連携してロシアの原潜監視を行い、米国の航空母艦を守る役割を担っています。つまり、ロシアにとって対米戦争を勝ち抜くには、日本は恐ろしく邪魔な国なのです。

 ここまでは、少し軍事知識のある人には常識だったと思います。さて、ここからが『第二次日露戦争』の「IFストーリー」となります。

 本書に登場するプーチンならぬ「ニコチン」大統領は、もっと自由に原潜を太平洋に出せないかを考えます。導かれる作戦は自明です。日本列島の海峡に面する部分の基地を破壊し、できれば占領してしまえば、米海軍に対して有利なポジションを得られます。しかし、米国の太平洋艦隊と本気で戦う力はロシアにはありません。航空母艦を持たないロシアと米国との差は歴然としているからです。