つまり、北海道北部だけの占領なら3日で十分。その3日間、北海道北部を占領できる程度の部隊なら、ロシア海軍の力でも用意できる、というものでした。
そして、作戦は実行されました。予想通り、日本政府は混乱するばかりで、前線の自衛隊幹部は演習として戦争準備を始めるものの、なかなか反撃には移れません。自らの国土を守ろうとしていない日本政府に対して、米国も簡単に日米安保を発動させません。
あっという間に北海道北部は占領され、港も占領されたうえ、航空自衛隊には攻撃許可がすぐ出ないので、ロシアの応援部隊も続々上陸してきます。
「タマに撃つタマがない」
自衛隊は世界でも稀な軍隊
さて、この後の日本はどうなるのでしょうか。日本政府は果敢に反撃できるのか。日米安保は本当に発動されるのか。これは「ネタばれ」になるので本稿では紹介しませんが、私はこの前半だけを読んで、「ウクライナへの『特別軍事作戦』となんて似ているのだろう」という感想をもちました。軍人なら、いや世界レベルの戦争を覚悟している人間なら、民族の独立や国連の常識など簡単に無視する発想をするものだし、それを断行すれば成功してしまうのが現実です。
そうした事態を防ぐには、有事の法制を確立しておくこと。そして、日米安保が迅速かつ絶対に発動される条件をもっと米国と詰めておかねばならないと痛感しました。
今の日本政府や自民党は台湾有事に狂奔していますが、自衛隊はいまだに軍法会議すら開けない世界的に稀な軍隊です。たとえば、多くの国で極刑となる兵士の敵前逃亡罪が日本では「懲役7年以下」でしかなく、戦争が始まった途端に逃げ出しても平気な「軍隊」です。有事で統率がとれなくなる可能性も指摘されています。
有事に備えた弾薬の備蓄や集積場も、住民の反対などによって、作戦的には無意味なところに集積されているという実態もあります。
「タマに撃つタマがないのがタマに傷」――。こんな自虐川柳がかつて自衛隊内で作られたのは有名な話ですが、事態はそうは変わっていません。
テレビやインターネットのニュースより、国民性や国力から軍隊の力を分析した書物の方が、的を射ていることが多いのも事実です。記憶から消えかけた本から、本質的なことがわかったように思います。
(元週刊文春・月刊文芸春秋編集長 木俣正剛)