「(TOKYO GAME SHOWの場合も)アプリの起動画面やその後の設計も独自の世界観を反映した演出に拘りました。また面倒なアカウント登録をなくし、ユーザー名を入れたらすぐに始められるようにすることで、離脱する可能性を下げています」(西村氏)

第二弾として企画開発を担当した人気トレーディング・カードゲーム「マジック:ザ・ギャザリング」のバーチャル・アート展では来場者の平均滞在時間が数時間にのぼり、西村氏も「改良点はあるものの、(企業側にとってだけではなく)ユーザーにとっても良いものが作れている」と手応えを口にする。

「マジック:ザ・ギャザリング バーチャル・アート展」のイメージ。画像は開発中のもの
「マジック:ザ・ギャザリング バーチャル・アート展」のイメージ。画像は開発中のもの

約10億円の調達で新たなVRプラットフォームの開発へ

ambrは2018年の設立。西村氏は「『VRChat』などのVRサービスを通じて、アバターを介して海外のユーザーとコミュニケーションが楽しめる体験に衝撃を受けたこと」がこの領域で事業を立ち上げるきっかけになったと話す。

もともとエンタメコンテンツそのものや、新しい技術を活用したものづくりに関心があり、前職ではVtuber関連の事業を手がけるエンタメテック系のスタートアップで取締役も務めた。VRの領域においてはまだ正解がないこともあり、今から挑戦すれば新しい表現やサービスを作れるチャンスがあると考え、起業することを決めた。

冒頭で触れた通り、最初に開発したのはtoC向けのバーチャルSNS。映画『サマーウォーズ』に出てくる仮想世界「OZ」のような世界観の実現を目指したサービスだった。

バーチャルSNS「仮想世界ambr」
 

同サービスは日本人のVRユーザー数千人に使ってもらえたものの、本格的な事業化のためには大規模な資金調達が必要になる。2020年に入って映画館や百貨店、不動産、観光など数十社からメタバース事業の相談を受けたことを1つのきっかけに、まずは法人向けのサービスを展開しながら事業を拡大していく道を選んだ。

今後の課題は開発効率のさらなる向上だ。xambrという基盤技術を有しているとはいえ、大規模なプロジェクトが中心ということもあって開発には時間がかかる。現時点では「年間に数本しか開発ができない状況」(西村氏)だ。

その打開策として、ambrでは今回の資金調達を踏まえて新たなVRプラットフォームの開発に力を入れる。西村氏の話では、同プラットフォーム上にさまざまな企業のバーチャル空間やバーチャルイベントを構築していくような構想。これによってよりスムーズに各プロジェクトを推進できる仕組みを整え、さまざまな企業がバーチャル空間やメタバースを活用できるようにしていきたいという。