バックオフィスで多かった“同じ悩み”

大学3年で会計士資格を取得した山本氏は、卒業後、不動産系スタートアップで取締役CFOを務め、バックオフィスやファイナンス業務を担当。当時、業務上の手続きに関して、社内や取引先など多くの人から、同じような相談を受けた。

例えば、本社を移転する場合、法務局や税務署をはじめとして、提出しなければならない書類が18種類もある。これらの書類は自治体などで書式が異なる場合があり、そのパターンは1000以上もある。スタートアップでは、起業家自身や数少ないバックオフィス担当者が、すべての手続きを担う必要があるため、書類作成の負担は大きな課題だったという。

会計士であると同時に、自身もバックオフィスを担った経験から、デジタル化によるソリューション提供が可能と考えた山本氏は、2019年9月にSoVaを創業。2年の開発期間を経て、2021年10月に「バーチャル会計事務所SoVa」をリリースする。

その背景には、起業のきっかけとなった多くの人たちの悩みに加え、会計士や税理士、社労士といった士業側の課題もあった。

既存の士業と競合しないプロダクト

低価格で行政書類の作成をサポートする──。一見、既存の士業から仕事を奪うビジネスと思われそうだが、実態は異なるという。

現在、国内の税理士の平均年齢は60代、社労士の平均年齢は50代。高齢化に加えて人口減少もあり、不足が懸念される。決算などで業務が集中する時期を鑑みると、一般的に税理士1人が安定的に対応できる顧客は20社ほどで、受託できる案件数に限界がある。また、従来型の書類作成を続けている士業の事務所などは、デジタル対応が難しいケースも多いのだ。

依頼者にとっても、地域によっては士業の人数が少なく、対応に適した人と出会えるとは限らない。税理・労務・登記では専門領域が異なるため、それぞれの専門家と契約する場合、コスト面の負担も大きい。

そこで士業が対応する業務を、書類作成といった「答えが1つに絞られるもの」と、融資や節税対策など「正解が複数存在するもの」の2種類に分け、DXと親和性の高い前者の「答えが1つ」の領域に特化して「バーチャル会計事務所SoVa」を開発した。

「機械と人間では得意分野が違いますから、デジタルに優位性のある部分に関しては、デジタルで解決すればいいと思います。逆に、融資戦略やストックオプションの設計など、専門知識や得意分野が活かせる……『士業魂』がくすぐられる領域に、人が集中できる環境を提供したいと考えました。実際に、士業の人たちからも、『こういうサービスを待っていた』という声をいただいています」(山本氏)