グローバル展開のために必要なこと
日本のスタートアップが海外に展開する上で、重要なポイントがいくつかある。
1つは、スタートアップが早いタイミングから海外に目を向けるべきという点。「国内市場で上場してから海外を目指す」という順番は多難に満ちている、ということはこの連載の第1回(『日本の“早すぎる上場”はスタートアップエコシステム全体にとっての損失──持つべき4つの視点』)でも述べた。いったん上場すると、株主の優先度合いが短期的な業績に向きがちで、日本よりも規模の大きい海外へ、長期視点を持って事業投資をする、ということが難しくなるのだ。
海外に17年以上住んで感じているが、日本のサービスのUI、UXはかなりユニークだといっていい。これは多くの場合誇らしいことで、食や観光など、その文化が世界中の人を魅了している理由だ。ただし例えば日本のウェブやスマートフォンのプロダクトを海外展開するには、言語だけではないデザインの大部分を作り直す必要があることが多い(一方TwitterやSlackなど、米国のUI・UXはBtoB、BtoCにかかわらず日本へどんどん進出してくる)。ビジネスの文化も、新卒一括採用・終身雇用がユニークなことをはじめ、独特といっていい。
スタートアップのプロダクトや組織が、数年かけて日本の顧客、日本の従業員をターゲットにして成長した後で、海外に舵を切るのは想像以上に難しいことを、僕はディー・エヌ・エー(DeNA)で身をもって経験した。
本当に海外を目指すのであれば、「ある程度安定してから」と考えるのでなく、アーリーステージの時点から、共同創業者の選び方も組織の作り方も、海外市場に対する目線も、一定程度投資しておいた方がよい。
VCからの資金調達方法からビジネスモデルの検証方法、トラブルへの対処の仕方など、英語であればものすごい量の情報がウェブ上にあふれている。ChatGPTに質問しても、英語と日本語では回答の充実度合いに大きな差がある。日本とアメリカのスタートアップエコシステムを比べて最も歴然とした違いはスタートアップの数だ。ありとあらゆる分野で同じことをやってるスタートアップの数が10倍違う。資金に関しては何十倍も違う。
結果、日本で検討しうるビジネスモデルは、世界に先行例があり、それらの失敗や成功から学べるところも多い。スタートアップのアイデア出しから海外のスタートアップの動向を知っているのと知らないのとでは全然、考えないといけない戦略パターンの在庫の量が変わってくる。そういう意味でも海外の動向を最初から把握していくのは重要だと思う。