そんな私の言葉に対して、とあるサポーターは「Jリーグが始まって20年。当時40歳だった私も今や60歳。スタジアムまでの道のりも体にガタが来て厳しくなってきたんですよ」と言ったのだ。サポーターから返ってくる言葉として予想をしていたものとは全く異なる回答に、私は心底驚かされた。アスリートから取得したデータで人々の健康に貢献することができれば、アスリートはエンターテイメント以外の新しい価値を生み出すことができるかもしれない。そして、そんな世の中を作りたいと本気で思ったのだ。

スポーツ選手700人に対して「うんち頂戴」

AuBを設立し、まず初めに取り組んだのがアスリートの便検体を収集すること。つまり、彼らのうんちを貰うことだ。

一番最初に「うんち頂戴」と言ったのは 2016年1月。プライベートでも親交のあるラグビー選手で、ワールドカップ日本代表にも選ばれた松島幸太朗に「うんち頂戴」と言った。最初は「え?何言ってるんですか?」と不審がられたが、私は「将来のため、アスリートのためになるから」と言って、半強制的に押し切った。

その後、箱根駅伝で「山の神」と呼ばれた長距離のプロランナー神野大地選手、プロ野球・東京ヤクルトスワローズの嶋基宏選手などが、続々と協力してくれて、2020年4月時点で集めた便の数はスポーツ選手700人分を越え、その検体数は1400個を突破している。

便の研究に費やした4年間は苦難の連続だった。それこそ創業当初から「サプリメントをつくって売りましょう」という声はあった。しかし、私は頑なに反対した。アスリートから貴重なデータをいただいているからこそ、きちんと研究し、その成果を商品やサービスに込める必要があると思ったからだ。

実際、AuB BASEを生み出すまでに4年もの年月がかかってしまった。ただ、時間がかかったからこそ、自信を持ってみなさんに勧められる商品が完成したと思っている。AuB BASEの発売が見えた矢先、資金が枯渇するかもしれない危機にも直面した。そんな危機を乗り越えて、AuB BASEを発表できたときは感極まる瞬間であった。

アスリート菌ミックスを使ったサプリメント「AuB BASE」
アスリート菌ミックスを使ったサプリメント「AuB BASE」

「筋肉と腸と栄養」の関係に着目した新しいタイプのプロテイン

これまで、700人を超えるアスリートの腸内環境を研究し、彼らの課題を腸と食の観点から解決するサポートを行ってきた。「増量したい」「減量したい」「お腹の調子を整えたい」「筋肉をつけたい」などアスリートの課題は明確だ。

そんな中、とあるアスリートから「筋肉がつきにくいんです」と相談された。他のアスリートにも話を聞くと、トレーニングを行い、プロテインを飲んでいるにも関わらず、「筋肉がつきにくい」という課題を抱えるアスリートが意外と多くいたのだ。