それでもまだ未知な菌も多くあり、今後も腸内環境の研究が進んでいくことで、私たちのコンディションに大きく関わっている菌の存在が明らかになってくるだろう。

なぜ、私が現役引退と同時に会社を設立し、腸内環境の研究に取り組もうと思ったのか。そこには母の教えがある。幼少期の頃から、私は調理師である母から「人間は腸が一番大事」といつも言われていた。母は健康を意識した数多くのお弁当のおかずをつくってくれたり、高校生になった頃には腸内細菌のサプリメントを与えてくれたりしていた。

当時、「腸内細菌」という言葉は一般的ではなかったため、恥ずかしさから友だちには「ビタミン剤だよ」と嘘をついていた。選手時代はお腹や腸を常に意識した。お腹を温めること、例えば食事を温かい緑茶で終えることや、冷たいものを控える、腹巻をして寝るといったことのほか、海外遠征時には必ず緑茶と梅干を持っていくことを徹底。また自分の「便を見ること」で日々のコンディションを確認していた。

そんな“腸活”の力を最も実感したのが2004年3月。印象に残っているのは、アテネ五輪の最終予選UAEラウンドのアウェイ戦だ。水か食事か、原因は今もわからないままだが、選手23名中18名が下痢に見舞われる事件が発生した。

ほとんどの選手は直前までトイレにこもっており、高いパフォーマンスを発揮できるような状況ではなかった。しかし日頃の腸活のおかげか、私は体調を崩すことなく試合に挑むことができた。腸を整えることが人にとって大事だ、ということを実感した瞬間だった。

アスリートの腸内環境データで人々の健康に貢献

この経験を通じて、「お腹の調子が整うと、身体の調子が整う」「便の状態とコンディションには相関関係がある」と身をもって確信し、「アスリートが腸内環境を意識出来れば、コンディションアップにつながるのではないか」というビジネスアイデアが思い浮かんだ。

そして、現役選手として終盤を迎えていた2015年6月。トレーナーから“便を調べている”という腸の専門家を紹介してもらい、その2日後には面会することに。そこで最新の研究内容を聞き、その場で「アスリートの腸内環境を調べたら面白いのではないか」とビジネスの構想を話したところ、意気投合し、2015年10月にAuBを設立した。

今まで感覚的に良いと感じていたものを数値化できるのはアスリート、ひいては人々の健康に貢献できるのではないか。そんなことを強く思ったからだ。

 

また、人々の健康に貢献したいと思う理由はもうひとつある。それは、とあるサポーターの一言がきっかけだった。浦和レッドダイヤモンズの観客動員数が減っていた頃、私はサポーターに対してスタジアムに来てもらえるようお願いをした。