「AirTagが発表されるよりも前から、この事業に関わっているからこそわかるのは『忘れ物』の数だけ課題があり、解決するための方法もさまざまだということです。目的や用途によって、紛失防止デバイスのデザインやサイズが比較・検討されます」

「どんなモノに、どんな紛失防止デバイスを付けるのかと悩む数だけチャンスがある市場なんです。そういう意味でも、AirTagに市場のシェアが奪われるというよりは、AirTagによって紛失防止デバイスへの注目度が高まり、忘れ物に関する課題解決のスピードが上がると感じています」(増木氏)

アップルの参入で沸く「紛失防止デバイス」市場、日本発メーカー・MAMORIOの戦略

アップルの真の狙いは「落とし物をなくす」ではなく「AR機能の強化」か

AirTagとMAMORIOは、基本的な仕組みは同じだ。違いを挙げるならば、MAMORIOは「忘れさせない」こともテーマに掲げているところにある。

「MAMORIOは『落とし物を発生させない』ことも大事にしています。物をなくすと『なぜ、あのときしっかり確認しておかなかったのか』と自分を責めることになるんです。とても強い感情が働くので、見つかったときの『よかった!』と思う気持ちもずっと残り続けます。一瞬ヒヤッとするあの経験をなくすことは、小さなことのように思えて、実は大きなこと。紛失時のヒヤッとする経験をなくすことが、MAMORIOの存在意義なんです」

「アップル製品という注目度から多くの方がAirTagを利用し、新たなユースケースが生まれてくる。それこそが、MAMORIOを成長させるチャンスになります」(増木氏)

また、「AirTagの本当の目的は『落とし物をなくしたい』こと以外にもあるのではないか」と増木氏は考えを口にする。

「アップルの目的はAR機能の強化だと思います。AR機能を使って空間上に何かを表示するには、タグのようなデバイスが必要。アップルとしては、自社製品と連動できるタグを販売することで、AR機能はもちろん、ARの体験そのものを向上しようとしています。タグを流通させるためのテーマとして『落とした物が見つかる』が適していた。AirTagは、AR機能のための布石なのではないかと思っています」(増木氏)

IoT製品で課題になるのが「いかにセンサーを多く設置するか」。さらに一つひとつのセンサーから情報を集めることは、運用コストがかかる。アップルがAirTagの技術を応用することで、新たなIoTのプラットフォームを築く可能性もあると増木氏は語る。

コロナ禍の2020年でも落とし物の数は約281万件

近年、日本ではキャッシュレス化が進み、財布を持たない人も増えた。それに加えて、昨年から続く新型コロナウイルスの影響で外出も減っている。にもかかわらず、警視庁の発表によれば2020年に届けられた落とし物の数は約281万件に上る。キャッシュレス化や新型コロナウイルスの影響などで物を持ち歩かない人は増えているとはいえ、落とし物自体がなくなる日は遠いように感じる数字だ。