あふれる情報の中で人の心が動くのは「本物」だけです。だから、ブランドを語るときに加工されたクリエイティブではなく、サービスとの関わりの中から立ち上がったリアルなストーリーを見つけ出し、磨くのです。「伝える」ではなく「伝わる」。話を聴いている人が、進んで一緒に歩きたくなるようなストーリー、ナラティブを言語化する。

そこに共感が生まれ、お客さんを一緒に冒険してくれる仲間にしていく。その仲間がまわりの人に声をかけて、さらに多くの仲間が寄ってくる。そして共にモノやサービスを作り上げていく。

このループを回していけば「コミュニティこそが経営戦略の根幹である」という方向性に至ります。そのコミュニティをベースのところで下支えするのが、ストーリーでありナラティブな語り口、語り方なのです。

さらにクリエイティブディレクターの佐藤尚之さんは著書『ファンベース 支持され、愛され、長く売れ続けるために』(筑摩書房)の中で、ファンの支持を強くするためには3つのアップグレードがあると述べています。

①共感→熱狂
②愛着→無二
③信頼→応援

プロセスを共有することによって、最初に抱いていた「共感」はやがて強い「熱狂」にまで高まっていく。ブランドへの「愛着」は、このブランドではなくてはダメだという「無二」の感情へと変わっていく。そして受動的な「信頼」から能動的な「応援」へと高まっていくのです。

こういった蓄積が「Community Takes All」(コミュニティを制するものがすべてを制す)につながってくるのです。

ハイネケンの最高すぎるCM

またプロセスを共有すると、人間はまったく違うポリシーや思想をもつ他者にも親しみを覚えて「この人は自分の仲間だ」と感じるものです。ハイネケンの素晴らしいコマーシャルを素材に使いながら、この点について考えてみましょう。

右翼と左翼、フェミニストとアンチ・フェミニスト、トランスジェンダーの当事者とアンチ・トランスジェンダー、「気候変動は人類のせいで起きているわけではない」という論者と「地球温暖化対策をやらなければ人類は滅亡する」という論者が、倉庫の中で初めて出会います。

フェミニズムやLGBT、地球環境問題といった複雑な議論をいきなり始めるわけではありません。そういう話は脇に置いて、主義主張がまったく異なる2人が一緒に椅子を組み立て始めるのです。

組み立て作業を1人でやるのは大変なので、助け合ったり指示を出し合ったりしながら椅子が完成します。2人はさらに協力を重ね、立派なバーカウンターができあがります。