「ヒット作を生み出したい」とは、ビジネスパーソンなら誰もが夢見ることだ。日本中の人がその商品の名前を知っている「メガヒット」ならなおさらよい。「綾鷹」「檸檬堂」「からだすこやか茶W」「SK-Ⅱ」「ファブリーズ」「ジョイ」…これらの商品は、ほとんどの日本人が知っているメガヒット商品だ。これらの商品を大ヒットに導いたのは、P&Gジャパン、日本コカ・コーラを渡り歩いた伝説のマーケター・和佐高志氏である。彼の初の著書『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋・編集して、ヒット作を生み出すコツを学ぶ。
本物のストーリーがあってこそのブランド
私は大学の卒業旅行でジャマイカにも行っています。そして、あの有名なブルーマウンテンに登ったのです。そこでブルーマウンテンの豆の知識を勉強しながら、思わずつぶやいたことを覚えていたのでした。「エメラルドマウンテンはどこにあるんだろう」
私は当然「ジョージア エメラルドマウンテン」を飲んだことがありました。そこにはエメラルドマウンテンのイラストが描かれていたのも覚えていました。ところが後になって、私は「エメラルドマウンテンという山はない」という事実を知ることになります。
驚きましたが、これは事実です。そしてそのとき、エメラルドマウンテンの本当の意味を知ったのでした。
コロンビアのコーヒー業界が、コロンビアで作っているコーヒー豆で中のアラビカの最高品種のものだけにエメラルドマウンテンという名前をつけたのです。そして、「ジョージア エメラルドマウンテン」は、その豆を輸入して作っていたのです。それは、おいしいはずです。
ところが、「ジョージア エメラルドマウンテン」の豆の良さを本当に理解している人は少なかった。コーヒー豆の最高級品種として知られるブルーマウンテンと値段を比べると、同じかそれ以上に高い。それが、コロンビアのエメラルドマウンテンなのに、です。
なぜ、最高品種なのか。世界的なコーヒー産地、コロンビアの標高1800m以上の高さの場所でしか収穫できない、とても貴重なコーヒー豆です。コロンビアで収穫されるコーヒー豆全体のわずか0.2%しか取れない豆を、私たちは缶コーヒーに使っていたのです。この事実をどうやって消費者にとってわかりやすいストーリーにするか、そのためにはエメラルドマウンテンがどんなふうに作られているか、現地で見てくるべきだと考え、実際コロンビアに行きました。コロンビアでは、斜度が30度、40度もの急斜面にコーヒーの木が植えられていました。
エメラルドマウンテンが作られている場所はこのように急斜面ですから、機械は入れない。すべて手摘みなのです。大変な手間暇をかけて、エメラルドマウンテンを作っていたのです。
実はこのエピソードを、後に広告にしました。そうしたら、当時の日本コカ・コーラ史上、最高となる、テレビCMのワンナンバースコアを達成することができたのです。
日本人は絶対にこういう話が好きだと思いました。製品に本物のストーリーがあってこそのブランドなのです。
消費者に共感してもらえる本物のストーリーを作るには、まず担当者がその道のエキスパートにならなければいけないということです。
和佐高志(わさたかし)1990年、同志社大学文学部新聞学科卒業後、P&Gジャパン・マーケティング本部入社。医薬品、紙製品のマーケティングに始まり、化粧品&スキンケア、洗濯関連カテゴリー等を担当。ブランドと人材育成の実績を重ね、ブランドマネジャーからマーケティングディレクターへ。2006年、紙製品、化粧品&スキンケア事業部担当のジェネラルマネジャーとして、P&Lの責任を持つ。2009年より、日本コカ・コーラのお茶カテゴリーマーケティング責任者。「太陽のマテ茶」や「からだすこやか茶W」などの新製品発売および「綾鷹」ブランドの立て直しなどによるお茶カテゴリーV字回復を実現。2013年、同社副社長に就任し、「ジョージア ヨーロピアン」「世界は誰かの仕事でできている。」キャンペーンなど複数の大型ブランドのビジネス拡大推進をリード。2019年にコカ・コーラ社世界初となるアルコールブランド「檸檬堂」の開発責任者として成功を収め、最高マーケティング責任者に就任。2020年、日経クロストレンドが選出する、マーケター・オブ・ザ・イヤー大賞受賞。2023年、同社を退社。株式会社Jukebox Dreams(ジュークボックスドリームズ)を設立、同社代表取締役CEO就任。