今年過去最高のペースで実施される企業MBO。大衆薬最大手の大正製薬ホールディングスが国内最大規模の約7100億円を投じ、株式市場に背を向け独裁に回帰する背景には、先祖の教えがあった。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)
国内では最高額となる約7100億円のMBO
国内の大衆薬最大手が株式市場を去ることになった。11月24日、大正製薬などを傘下に持つ大正製薬ホールディングス(HD)は、オーナー一族の上原茂・大正製薬社長が代表の大手門株式会社によるMBO(マネジメントバイアウト)を行うと発表した。
MBOとは、買収対象会社の経営陣が出資して行う、いわば自社買収。2023年は東芝、ベネッセHD、シダックス、シミックHDと各業界大手のMBOが相次いだが、大正製薬HDの買い付け総額は約7100億円と国内では最高額となる。
引き金となったのは23年に東京証券取引所がPBR(株価純資産倍率)1倍未満の企業に資本コストや株価への意識改革・リテラシー向上、コーポレートガバナンスの向上、英文開示の拡充、投資者との対話の実効性向上などの改善策の実施を求めたことだ。
今後の金利上昇も予想される中、資金調達がしやすい今のタイミングで、主に同族企業で駆け込みMBOが続くと予想されていた通りとなった。
前述のベネッセ、シダックス、シミックと同様、大正製薬も同族企業で、内部関係者の証言からも上意下達の社内文化であることは想像に難くない。
個人投資家がアクティビスト(物言う株主)と呼ばれるようになり株主提案も増加する昨今、口うるさい彼らからのノイズを振り払う方が、同族オーナーとしては上場維持よりもメリットが大きいとの判断だろう。とはいえ、大正製薬HDの約7100億円は今回MBOを実施した同族企業の中でも金額が際立っている。
振り返れば同社は、かねて株主軽視の姿勢が明確ではあった。