パブロンが品薄になった棚Photo:Diamond

新型コロナウイルスのパンデミックが始まって以来、長らくゼロコロナ政策をかたくなに貫いてきた中国が、年末年始にかけて各種規制を大幅に緩和。その影響は日本にも及び、中国向けの転売目的で、大正製薬「パブロンゴールドA」を中心に、空前の風邪薬バブルが起きている。しかしこの特需の波にいまいち乗り切れない、医薬品業界特有の事情がある。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

中国からの特需で風邪薬が品薄
大正製薬は年末年始に工場を緊急稼働

 新型コロナウイルスに対して、無症状者に至るまで徹底した検査を行い、数人でも感染者が見つかればその地区すべてを封鎖する――。世界一厳しい中国の「ゼロコロナ」政策が昨年末、ついに終わりを迎えた。国内経済の低迷や大規模な抗議運動の影響は明らかだが、名目上は「コロナを制圧した」からだという。

 しかし、行動制限を一挙に緩和した代償は大きかった。検査をやめたため、公に発表される感染者は減っているものの、中国国内の発熱外来には患者が殺到し、薬局には風邪薬を求める人々が列をなす始末。その影響で日本国内では中国向けの転売を目的にした風邪薬の大量買い占めが発生。中国政府が制限緩和を加速した昨年12月上旬以降、全国のドラッグストアでは軒並み総合感冒薬や解熱鎮痛剤が品薄状態となった。

 特に品薄なのが、大衆薬大手である大正製薬の総合感冒薬「パブロンゴールドA」。中国最大のSNS「微博」を見ると、「日本からの小包が届きました」という文言の下に、パブロンゴールドAが高々と積み上げられた写真が投稿されている。パブロンゴールドAは、以前から中国国内のコミュニティーサイトやSNSなどで、日本に行ったら買うべき10個の市販薬、その名も「日本十大神薬」の一つに挙げられていた。

 コロナのパンデミック以降、市販の総合感冒薬の売り上げが低迷していたところに、降って湧いた中国ゼロコロナ終了バブル。特需で品薄状態になっているのを受け、大正製薬は年末年始も工場を緊急稼働し、現在も増産を続けている。

 これで店頭の品薄が解消されていくかと思いきやそうはなっていないし、大正製薬は中国ゼロコロナ終了バブルの波に十分乗り切れてはいない。そこには意外な事情が存在する。