大正製薬「PBR1倍割れ」、決算好調でも株式市場で評価されない根本的な理由Photo:Diamond
*本記事は医薬経済ONLINEからの転載です。

 少し遡るが、大正製薬ホールディングスが2月9日に発表した23年3月期第3四半期決算とその直後に開催された決算説明電話会議は、久方ぶりに注目を集めたのではないだろうか。

 その理由は、まず決算そのものが好調だったことだ。第3四半期までの途中ラップとはいえ、売上高は2277億円で前年同期比14%増、営業利益が231億円で3.24倍増、四半期純利益も209億円と2.33倍増の大幅増益を記録した。ただ、22年3月期第3四半期決算は売上高2001億円で▲1.6%、営業利益71億円で▲66%、四半期純利益90億円で▲37%と大幅減益であったことを考えると手放しで喜べる状況ではない。減収大幅減益の要因は医薬事業で骨粗しょう症治療薬「エディロール」を共同販売パートナーだった中外製薬へ全面移管したためで、22年3月期で約162億円の減収となり、収益の重石となった。

 また、22年3月期は「リポビタンD」の生誕60周年ということもあり、第3四半期経過時点の広告宣伝費として67億円増の244億円を投下しており、通期でも68億円増の319億円を投入している。セルフメディケーションが主力である大正製薬にとって広告宣伝は最重要の経営戦略と位置付けられるが、外部にはその効果がなかなか見えにくいことに加えて、業績の変動要因となることが多い。

 2つ目の理由は総合感冒薬「パブロン」の売上げ急増である。23年第3四半期は中国のゼロコロナ政策が続いていた時期と重なっており、中国での薬不足を受けた在留中国人による日本国内の総合感冒薬の買い占めが報道された。パブロンの第3四半期時点での売上げは213億円、前年同期は150億円であった。もともと売上げが急変するような製品ではないため、まさしくパブロン特需の恩恵が大きかったと考えられる。

 3つ目の理由は医薬事業から待望の新薬が発売されたことだ。22年12月1日に既存治療で効果不十分な関節リウマチを適応とする「ナノゾラ」(オゾラリズマブ)を発売した。大正製薬にとって16年1月発売の経皮吸収型鎮痛消炎剤「ロコア」以来7年ぶりの新薬となる。国内初の抗TNFαナノボディ製剤で、分子量が小さいため、従来の抗体ではアプローチできなかった疾患標的部位に作用する可能性があることが特長とされる。中央社会保険医療協議会の資料によるとピーク時となる発売後9年度目の予測投与患者数は6800人、予測販売額は91億円だ。会社側ではピーク時売上高100億円をめざすとしているようだ。

 関節リウマチは競合の激しい領域であり、ナノゾラは生物学的製剤のブランド品としては6番目の参入となる。同じ作用機序の抗TNFα抗体だけで1000億円を超える市場が形成されている。「レミケード」「エンブレル」「ヒュミラ」にはバイオシミラーも参入しており、価格も重要なファクターとなっている。エディロールで築いた整形外科領域での強みを生かせるかどうかが重要だろう。今回の決算電話会議ではナノゾラの発売について、まだ時期尚早であることから具体的な説明はなかった。

 4つ目の理由は22年11月28日の薬事・食品衛生審議会要指導・一般用医薬品部会で抗肥満薬「アライ」(オルリスタット)が、要指導医薬品での製造販売承認が了承され、2月17日にダイレクトOTC薬として正式承認が下りた。アライは男性85cm以上、女性90cm以上の腹部に該当する人における内臓脂肪と腹囲の減少を効果・効能とする。対象者は生活習慣改善の取り組みを行っており、肥満だが健康障害のない人としている。運動や食事などの生活習慣の改善を行っていることが条件で、アライを補助的に使用することができる。

 オルリスタットはリパーゼ阻害作用を有し、食事由来の脂質の体内吸収を抑制する作用機序により、内臓の脂質面積や腹囲周辺の減少を促す。18歳以上を服薬対象として、脂質異常症、高血圧、睡眠時無呼吸症候群などに該当する人には服用不可となる。いわゆるダイエット薬・やせ薬として不適切な使用を防ぐための11項目のチェックシートがある。OTC薬としての市場規模は未知数だが、適正使用を徹底するための指導が必要となるだろう。処方薬では新規経口GLP―1作動薬などが抗肥満薬として注目を集めており、アライの今後の市場浸透が注目されることは間違いなさそうだ。

 しかし、これだけの注目点がありながら株式市場での大正製薬ホールディングスの評価は高まらなかった。