買い煽り系YouTuberは「靴磨きの少年」か?投資のプロが予言した“株価暴落”のサインとは写真はイメージです Photo:Getty Images / Ivan-balvan

三田紀房の投資マンガ『インベスターZ』を題材に、経済コラムニストで元日経新聞編集委員の高井宏章が経済の仕組みをイチから解説する連載コラム「インベスターZで学ぶ経済教室」。“靴磨きの少年”が株の話をし始めたら、そろそろ相場は危うい――。そんな古くからの逸話があるが、現代版の靴磨きの少年は誰なのだろうか? 第40回は、株価の「天井」や「大底」の予兆を探る。

「バスに乗り遅れるな!」群集心理のワナ

 タイムスリップした主人公の財前孝史は、明治時代の道塾学園の投資会議を目撃する。日露戦争の戦勝に浮かれ、強気一辺倒となる番頭たちに反し、孝史の曽祖父である龍五郎だけが経済の実態に目を向けて「売り」を主張する。

「もう『現代』や『ポスト』で、推奨銘柄の袋とじは始まっているかい?」

 いわゆる「郵政相場」に株式市場が沸いていた2005年。独フランクフルトで会った四半世紀の日本株投資歴を持つファンドマネジャーはこんな逆質問をしてきた。

「まだ見かけないですね」と答えると「始まったら教えてくれ。サラリーマンが株式投資を始めたらそこが日本株の天井のサインだから」と経験則を披露して笑った。週刊誌の影響力が落ちた今なら、YouTubeの買い煽り動画の再生数がひとつのサインになるのかもしれない。

 バブルの発生には金融緩和やレバレッジ(借金による投資)の拡大など、いくつかの経済的な条件があるが、最終局面で急騰をもたらすのが群集心理というのはひとつの顕著な特徴だ。

 普段は投資に興味のない人の耳にまで「周りが投資で儲けている」と噂が届き、バスに乗り遅れるなとマーケットに新規資金が流れ込む。そんな人々が往々にして最後の買い手となり、マネーの逆流で急落が始まる。

「買い時」がわかる指数って?

漫画インベスターZ 5巻P117『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク

 当代随一の投資家ウォーレン・バフェット氏に「他者が貪欲な時に恐怖心を抱き、他者が恐怖心を抱えている時に貪欲であれ」という名言がある。バフェット氏は実際、リーマンショックの最中に米金融大手へ大規模な投資を断行するなど有言実行の実績も持つ。

 だが、凡人にとってはまさに「言うは易く行うは難し」だろう。群集心理に逆らうのは相当の胆力を要する。

 長年のマーケット取材で感じるのは、強気相場の中で慎重さを保つより、総悲観の中で買いに動く方がまだ難易度は低いということだ。株式相場の常として、上昇には時間がかかり、下げるときはあっという間だ。つまり、過度の楽観の化けの皮がはげるには時間がかかるが、恐怖は暴落という形で可視化されやすい。

 ひとつの目安になるのが「恐怖指数」の異名を取る米VIX指数だ。米国の株式相場が荒れるという予想が増えると数値が跳ね上がる。平時は10台から20前後が居所のVIXが30を超えれば、市場に恐怖心が広がりつつあると分かる。

 私が個人的に「買い時」と決めているのはVIX50超えだ。マーケットも世情もパニックに陥るほどの状態にならないとVIXは50まで届かない。リーマンショックとコロナショックの急落時には、投資に制約を受ける現役の記者としてできる範囲で、待機資金をインデックスファンドやハイイールド債に投入した。

「VIX50超えで買い」は勝率が極めて高い手法なのだが、チャンスが10年に一度まわってくるかどうかのレアイベントというのが難点だ。友人のあるファンドマネジャーは「夕方のニュースで株安が3日連続でトップになったら黙って買う」という経験則を持っているという。こちらの方が活用できる場面は多いかもしれない。

漫画インベスターZ 5巻P118『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク
漫画インベスターZ 5巻P119『インベスターZ』(c)三田紀房/コルク