空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』が発刊された。西成活裕氏(東京大学教授)「あらゆる人におすすめしたい。壮大なスケールで「知的好奇心」を満たしてくれる素敵な本だ」、鎌田浩毅氏(京都大学名誉教授)「美しい空や雲の話から気象学の最先端までを面白く読ませる。数学ができない文系の人こそ読むべき凄い本である」、斉田季実治氏(気象予報士、「NHKニュースウオッチ9」で気象情報を担当)「空は「いつ」「どこ」にいても楽しむことができる最高のエンターテインメントだと教えてくれる本。あすの空が待ち遠しくなります」と絶賛されたその内容の一部を紹介します。

【映画『天気の子』気象監修者が教える】入門者から気象予報士を目指す人まで、“気象学のオススメ本”厳選10冊Photo: Adobe Stock

すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する

 本書『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』では気象学に関して幅広い話題を取り上げて、わかりやすさを重視して解説をしてきました。「気象学は面白い」――少しでもそんなふうに思っていただけた方に、ぜひ推奨したい本やウェブサイトをご紹介します。

 古代ギリシャの哲学者アリストテレス(前384ー前322)は、「すべての人間は、生まれつき、知ることを欲する」と『形而上学』で述べています。私自身も、大学時代の指導教官に同様のことをいわれたことがあり、そのときのことをなぜか今でもよく覚えています。

 学べば学ぶほど面白くなるのが気象学です。ぜひ気象学の学びを通して、みなさんの人生をより豊かなものにしてください。

『空のふしぎがすべてわかる! すごすぎる天気の図鑑』(荒木健太郎著、KADOKAWA、2021)
 天気について疑問に思われがちな話題を解説した本です。すべての漢字に読み仮名がついているので、小学生から読めます。といいながらも、かなり専門的な内容も含まれており、大人が読んでも十分に楽しめます。

 シリーズ化されており、『もっとすごすぎる天気の図鑑』は季節現象の話題も含めて気象学を深掘りしており、『雲の超図鑑』では雲に特化して基礎から発展的な内容まで、文化も含めて紹介しています。幅広く気象を知りたい方におすすめです。

『世界でいちばん素敵な雲の教室』(荒木健太郎著、三才ブックス、2018)
 気象についてQ&A形式で解説をしている写真ベースの本です。美しい写真が多く掲載されており、本書以外でも写真を見ながら解説を読みたい、という方におすすめです。
 特に雲や空の現象について取り上げており、視覚的に楽しみながら学べるというのがこの本の特徴といえると思います。『天気の図鑑』シリーズやこの本で雲や空への興味が深まってきたら、次に紹介する『雲を愛する技術』へと進んでみてください。

『雲を愛する技術』(荒木健太郎著、光文社新書、2017)
 気象学の基礎を概念的にわかりやすく図解で説明しており、特に雲については細かい分類も含めて網羅的に取り上げています。ほとんどすべてを写真つきで解説しているので、雲について詳しく知りたいという方は『雲の超図鑑』や『世界でいちばん素敵な雲の教室』の次にこの本を読むとよさそうです。

 この頃の私の著作ではイラストレーターさんがつけられておらず、パワーポイントで作った図がそのまま載っています。パワーポイントで図を作る練習になったため、研究の報道発表を行うときの概念図を作るのが得意になってしまいました。

『雲の中では何が起こっているのか』(荒木健太郎著、ベレ出版、2014)
 雲や空への興味が深まり、科学的な背景まで知りたくなってきた方におすすめの本です。特に気象学の初学者がつまずきやすい熱力学の部分を概念的にわかりやすく説明しており、気象予報士試験の勉強をはじめるときに読むとよいといわれています。雲物理についてかなり詳しく説明されており、当時の最新の研究についても多く触れられています。ただ一部古い内容もあるので、研究の話については本書や後述する『天気』、『気象研究ノート』でアップデートするのがよさそうです。

『図解 気象学入門 原理からわかる雲・雨・気温・風・天気図』(古川武彦、大木勇人著、講談社ブルーバックス、2011)
 タイトルの通り、気象学の基礎について一通り図解している入門書です。雲、雨と雪、気温、風、低気圧・高気圧と前線、台風、天気予報についてそれぞれ章立てて説明されています。気象学初学者、気象予報士の勉強をはじめようという方におすすめの本です。

 講談社のブルーバックスの図解シリーズの一冊で、価格も手頃で手に取りやすいです。数式なしで説明されているので、後述の『一般気象学』などで本格的に勉強をはじめる前に読んでおくと、その後の理解が進みやすいと思います。

『新 百万人の天気教室(2訂版)』(白木正規著、成山堂書店、2022)
 気象学の基礎的な考え方、知識について解説されている入門書です。気象学初学者が『雲の中では何が起こっているのか』『図解 気象学入門』を読んだ後に読むと、理解の助けになります。

 気象学の物理的な考え方がわかりやすく解説されているため、数式を使って本格的に学びはじめる前に読むのがよさそうです。私もこの本から読みはじめました。天気記号などについても詳しく書かれており、気象予報士試験受験生にも大きな助けとなる本です。

『一般気象学(第2版補訂版)』(小倉義光著、東京大学出版会、2016)
 気象学の教科書として最も有名で、ロングセラーなのがこの本です。最初に出版されたのは1984年、なんと私と同じ年です。とはいえ内容はその都度アップデートされており、気象学全般について数式も交えて解説されていて、理解を促す助けになってくれます。数式が苦手という方は、まずは『図解 気象学入門』や『新 百万人の天気教室』で基礎をおさえてからこの本を読み、数式の部分と対比させて読み進めると理解が深まりそうです。

『日本の天気 その多様性とメカニズム』(小倉義光著、東京大学出版会、2015)
 日本で起こる気象について、理論から丁寧に解説されている良書です。取り扱っている現象は幅広く、低気圧・高気圧、前線形成や雷雨、竜巻、大雨・大雪など多岐にわたります。それなりにボリュームのある大作ですが、最初に「おわりに」を読むと、気象学の面白さやその科学の発展に貢献してきた研究者の想いに引き込まれます。『新 百万人の天気教室』や『一般気象学』で基礎を固めてから読むと非常に勉強になる本で、気象学を志す大学生や気象予報士の方におすすめです。

『図解説 中小規模気象学』(気象庁監修、加藤輝之著、気象庁、2017)
 気象大学校で気象庁職員を対象とした予報業務についての研修の講義資料をベースに作成された教科書です。気象庁ウェブサイトの「気象の専門家向け資料集」で全文PDFが公開されています。大気の安定や不安定、大雨、雷、竜巻、大雪など、メソ気象について理論から詳しく図解されており、非常に勉強になります。気象学を志す大学生・院生、気象予報士など、専門知識を深めていくのに大きな助けとなってくれること間違いなしの本です。

『総観気象学 基礎編・応用編・理論編』(気象庁監修、北畠尚子著、気象庁、2019[理論編は2022])
 気象大学校の学生向けの授業資料を元にした教科書で、理論から応用まで非常に丁寧に解説されています。いずれの編も気象庁ウェブサイト「気象の専門家向け資料集」で全文PDFを入手できます。数式による説明が多いぶん、正しく現象を理解するのに極めて役に立ちます。気象学を本格的に学びたい大学生・院生や気象予報士など予報業務従事者向けです。基礎編→応用編と読み進めつつ、適宜理論編を参照するという読み方をするとよいかもしれません。

「気象の専門家向け資料集」(気象庁、https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/expert/)
 気象庁ウェブサイトにある気象予報士等の気象の専門家向けの資料集で、リアルタイムの情報として専門天気図や予報の解説資料を閲覧できます。さらに、それらの資料を読み解くための解説資料や、専門用語集、教科書、最新の予報技術に関する資料集もあり、実践的な予報技術を磨くための資料が満載です。気象予報士試験受験生に加えて気象予報士も最新技術の動向を確認するのに活用できます。極めて有益なので気象を学びたい方はぜひ一度アクセスしてみてください。

「刊行物・レポート」(気象庁、https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/)
 気象庁が発刊している各種刊行物やレポートをまとめたページです。毎年発刊されている『気象業務はいま』では、最新の技術動向も含めてひと通りの気象庁業務を知ることができます。さらに、『日本の気候変動2020』では最新の気候変動の知識、『数値予報解説資料集』『季節予報研修テキスト』では数値予報に関する技術的な解説が非常に詳しく紹介されています。将来気象業務に携わりたい学生や気象予報士試験受験生、気象予報士などは必見です。

「予報技術に関する資料集」(気象庁、https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/expert/yohougijutsu.html)
 気象庁発刊の予報技術研修テキストを公開しているページです。これらは、気象庁で予報現場にいる職員向けに実施している研修資料と同じもので、毎年3月に更新されています。ここを確認すれば最新の技術動向やその詳しい解説の資料を得ることができます。民間の予報現場で働く気象予報士の方は必見の資料集です。また、気象庁から配信されるデータの更新情報などは「配信資料に関する技術情報」(気象庁、https://www.data.jma.go.jp/add/suishin/cgi-bin/jyouhou/jyouhou.cgi)であわせて確認するのがおすすめです。

『天気』(日本気象学会、https://www.metsoc.jp/tenki/)
 日本気象学会の機関誌が全文PDFで公開されています。最新のものは学会員の専用ページで参照できますが、冊子刊行の半年から1年後には一般公開されます。最新の研究動向がわかるという意味でも有益なのですが、記事検索で過去の資料にアクセスできるのが極めて便利です。何かを知りたいと思ったときに検索すると、詳しく解説された記事に出会えると思います。気象学を志す大学生・院生や、気象学を詳しく学びたい気象予報士の方などにとてもおすすめです。

『気象研究ノート』(日本気象学会、https://www.metsoc.jp/publications/research-notes)
 日本気象学会が発刊している、気象全般に関する研究や技術をまとめた教科書です。私も編集委員を務めており、年に数巻発行されています。専門書のため価格は高めですが、気象学会員だと割引されます。それよりもすごいのは、気象学会員であれば過去の『気象研究ノート』のPDF版にアクセスできてしまうということです! 『気象研究ノート』を閲覧するためだけに気象学会に入会しても十二分にお釣りがきます。気象学を詳しく学びたいすべての方におすすめです。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしの関連記事です)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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