空が青い理由、彩雲と出会う方法、豪雨はなぜ起こるのか、龍の巣の正体、天使の梯子を愛でる、天気予報の裏を読む…。空は美しい。そして、ただ美しいだけではなく、私たちが気象を理解するためのヒントに満ちている。SNSフォロワー数40万人を超える人気雲研究者の荒木健太郎氏(@arakencloud)が「雲愛」に貫かれた視点から、空、雲、天気についてのはなしや、気象学という学問の面白さを紹介する『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』の内容の一部を特別に紹介します。

なぜ「線状降水帯」で「集中豪雨」が起こるの? SNSでも人気の雲研究者が教えるPhoto: Adobe Stock

線状降水帯と集中豪雨

 豪雨の原因にはいくつかあります。一つは「線状降水帯」です。西日本の太平洋側や九州で発生しやすく、特に梅雨末期などに水害を引き起こす現象です。風上で次々と積乱雲が発生・発達し、風に乗って流されるとともに、風上ではさらに新しい積乱雲が生まれ続けるのです。

 線状降水帯は、発達した積乱雲が列をなし、組織化した積乱雲のまとまりによって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出されます。線状に伸びる強い降水を伴う雨域のことです。

 通常の積乱雲がもたらす雨量は数十ミリメートル程度ですが、線状降水帯では狭い範囲に強い雨が何時間も降り続きます。

 その結果、総雨量が一〇〇ミリメートルから数百ミリメートルにもなる「集中豪雨」が引き起こされてしまいます。日本で発生する集中豪雨の約七割が線状降水帯によるものと考えられており、重大な水害をもたらしますが、その仕組みは十分にわかっていないため、監視・予測のための研究開発が急ピッチで進められています。

 二〇二一年からは、気象庁はレーダー観測などをもとに線状降水帯をリアルタイムで監視するようになりました。

 線状降水帯によって「大雨災害発生の危険度が急激に高まっている」場合には、「顕著な大雨に関する気象情報」を発表して警戒を促しています。

多量の水蒸気が豪雨の鍵

 線状降水帯が狭い範囲に豪雨をもたらす一方で、二〇一八年七月の「西日本豪雨」のように、広い範囲で大雨が続き、豪雨に至るケースもあります。

 これは梅雨前線に極めて多量の水蒸気の流入が持続し、広い範囲で雨が降り続いたのが原因です。また、台風の接近に伴って豪雨が発生することもあります。

 二〇一九年十月の「令和元年東日本台風(台風第一九号)」は、接近前から東日本に多量の水蒸気が流入し、大雨になりました。このとき、台風が温帯低気圧に変化する過程で、台風の北側に天気図上では表現されない前線のような構造が存在していました。

 この隠れた前線に台風周辺の非常に湿った空気が流入し続け、台風接近前から雨が強まっていたのです。東日本台風では、地形も降水量に大きな影響を与えました。

 湿った空気が山地に流入すると斜面で持ち上げられて雲が発生し、上空の雲から下にある雲に雨が降ることで降水が強まるというシーダー・フィーダーメカニズムが働いたのです。

 一般的に、台風接近時には、山地の斜面による持ち上げで、紀伊半島などの太平洋側の地域での南東斜面で総雨量が極めて多くなることがあります。

 これは、台風本体の雨雲がかかるときのシーダー・フィーダーメカニズムのほかに、台風接近前から山地の斜面での持ち上げで積乱雲が発達することも影響しています。

線状降水帯の予測は難しい

 梅雨前線のような停滞前線と台風は、組みあわさると危険です。二〇〇〇年九月の「東海豪雨」は、停滞前線である秋雨前線が日本付近にあり、遠くに台風がある状況で発生しました。

 台風由来の非常に湿った空気が太平洋高気圧の縁に沿って北上して停滞前線に流入し、大雨が発生したのです。これらの大雨は、主な原因である前線や台風のスケールが大きいため、現在の技術でもある程度は予測できます。

 しかし、積乱雲単体や線状降水帯のようなスケールの小さな現象の予測は、非常に難しいのが現状です。まず実態解明をした上で、どうすれば予測できるか、その方法を検討しているところです。

(本原稿は、荒木健太郎著読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなしから抜粋・編集したものです)

荒木健太郎(あらき・けんたろう)

雲研究者・気象庁気象研究所主任研究官・博士(学術)。
1984年生まれ、茨城県出身。慶應義塾大学経済学部を経て気象庁気象大学校卒業。地方気象台で予報・観測業務に従事したあと、現職に至る。専門は雲科学・気象学。防災・減災のために、気象災害をもたらす雲の仕組みの研究に取組んでいる。映画『天気の子』(新海誠監督)気象監修。『情熱大陸』『ドラえもん』など出演多数。著書に『すごすぎる天気の図鑑』『もっとすごすぎる天気の図鑑』『雲の超図鑑』(以上、KADOKAWA)、『世界でいちばん素敵な雲の教室』(三才ブックス)、『雲を愛する技術』(光文社新書)、『雲の中では何が起こっているのか』(ベレ出版)、新刊に『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(ダイヤモンド社)などがある。
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