美術館に行っても「きれい!」「すごい!」「ヤバい!」という感想しかでてこない。でも、いつか美術をもっと楽しめるようになりたい。海外の美術館にも足を運んで、有名な絵画を鑑賞したい! そんなふうに思ったことはないでしょうか? この記事では、書籍『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から、ご指名殺到の美術旅行添乗員、山上やすお氏の解説で「知っておきたい名画の見方」から「誰かに話したくなる興味深いエピソード」まで、わかりやすく紹介します。

民衆を導く自由の女神 ウジェーヌ・ドラクロワ『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』より

「フランス人の魂」として愛される名画

フランス人の魂のような作品、ドラクロワ「民衆を導く自由の女神」ですね。

──あ、これ知ってます! ジャンヌ・ダルクですね!

ありがとうございます~! とってもこの後の話がしやすくなる間違いです~(笑)。

──え! ジャンヌ・ダルクじゃないんですか?(汗)

よくある間違いですね! あと、こちらは何のシーンを描いた絵でしょーうか?

──ううーん! この力強さ、この躍動感、これは、「フランス革命」!!!(てかフランスの有名なシーンってそれしか知らんし)

それも残念! この絵はフランス革命でもないんですよ~!

──えー! もうお手上げです!

(笑)。まず、この絵はフランス革命から約40年後に起こった1830年の「七月革命」をモチーフにしています。そもそも、フランス革命はどんな出来事だったか覚えていますか?

──うーん、確か「パンがなければお菓子を食べればいいんじゃない?」ですよね?

そうですけど、真っ先にそこが出てくるとは(笑)。

市民たちが重い税金にあえぐなか、王侯貴族たちは贅沢三昧。それに怒り狂った市民たちが自由を求めて立ち上がった…! 簡単に言うとそれがフランス革命です。

で、革命後のフランスを率いたのがナポレオン・ボナパルトですが、ロシアに負けて失脚。そうすると…なんとまた王様が帰ってきて、王様が支配する世界に逆戻りしたんです。

──えっ。全然革命の意味がないじゃないですか!

その通りです! だからフランス革命の約40年後に、もう一度市民たちが立ち上がったんです! それがこの七月革命。

絵を見ると、足元には戦いで敗れた人が転がっており、立ち向かう市民たちは敵から奪った剣や銃で武装し、高らかに歩みを進めていますね。

──ほんと、いまの話を聞いたら彼らの怒りが伝わってくるようですね。それにしても、この人たち…お金持ちそうな人と、そうでもなさそうな人がいますが…なんか意味があるんですか?

大ありです! シルクハットをかぶった男性は中産階級者、その左の男性は工場などで働く労働者、少し若く見える一番右の男性は、学生です。

つまり、一部の階級だけでなく、「フランス国民みんなが怒ってるねんで!」と伝えているんです!

──なるほど。だからみんな違う服を着ているんですね! …で、真ん中の女性は…あの、なんでこんな戦場で胸がはだけているんでしょうか?(汗)

はは、ここ気になりますよね(笑)。そもそもこの女性は「誰」というわけではない、「自由」という形のないものを擬人化した女神と言われています。つまり、「自由」が市民たちを扇動しているんですね。

そして、彼女の胸がはだけているのは、母性の象徴。つまり、母性=祖国愛、フランスへの愛を表すんです。

──なんと! そんな意味があったんですか。ジャンヌ・ダルクかと思っていた自分をボコってやりたいです!

はは(笑)。ちなみにジャンヌ・ダルクは全然違う人ですよ。

それにしてもこの絵は奥が深いですよね。フランス人は自分たちで自由を勝ち取った歴史をとても大切にしています。

その一場面を熱く描いたこの絵は、フランス人の魂を代表するような作品と言われて愛されているんですよ!

──みんなで大切にできる絵があるって素敵ですね!

(本記事は山上やすお著『死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』から一部を抜粋・改変したものです)