激化する中国鉄鋼メーカーとの競争

 最近、中国勢は低価格攻勢を一段と強めてきた。中国の不動産バブル崩壊の影響は大きい。地方政府の財政悪化によって、インフラ投資も停滞気味だ。行き場を失った中国の鉄鋼製品は海外に流出していて、米国や欧州委員会は、中国が鉄鋼の不当廉売(ダンピング)を仕掛けていると警戒を強めていた。

 そして、中国勢は製造技術も向上した。特に、EV(電気自動車)のボディーやパーツの製造に必要な熱延鋼板の輸出は増加している。日本製鉄が強みを発揮してきた高付加価値型の鉄鋼製品分野でも、中国勢が追い上げているのだ。中国政府は今後も政府系鉄鋼メーカーへの支援を強化するだろう。

 日本製鉄がそうした事業環境の加速度的な変化に対応するためにも、米国企業と手を組む意義は大きい。米バイデン政権は、経済安全保障体制の強化のために産業政策を修正し、EVやそのパーツに中国産の鉱物や部材を使わないよう企業に強く要請している。

 また、主要先進国の中でも米国の潜在成長率は相対的に高く、米FRB(連邦準備制度理事会)の推計ではおよそ1.8%。鉄鋼需要も高水準で推移する可能性は高い。日本製鉄にとって、より多くの高付加価値型の鋼材需要を獲得するためにも米国事業を強化することは理にかなっている。

 ただし、その際、米国に自力で製鉄所を建設し、生産能力を強化することが最適とは限らない。それよりも、一定の知名度や技術力を持つ海外企業を買収した方が、収益獲得の可能性は高まる。

 USスチールは、「鉄鋼王」で知られたアンドリュー・カーネギーが設立に携わり、米国の鉄鋼産業を象徴する企業である。電炉を用いた製鉄体制に強く、鉄鉱石の鉱山も保有する。高炉メーカーとして成長した日本製鉄が、水素を用いて二酸化炭素の排出力の少ない製鉄技法を確立するためにも、USスチールを取り込む意義は大きい。