高付加価値な鋼材の創出力を強化できるか
今後、日本製鉄は持続的に研究開発を強化し、新しい製品を生み出す力を高めなければならない。EVの航続距離を延ばすための高耐久・軽量の薄型鋼板の需要が増えている。電炉を用いて鉄スクラップから高品位な鉄鋼製品を生み出す技術も、世界中が欲している。
そうした需要をどれだけ獲得できるかが、日本製鉄の長期存続を決定づける。USスチール買収を成功に導ければ、さらに他の海外鉄鋼メーカーなどを買収する可能性もある。
それは、粗鋼の生産量もさることながら、付加価値の点で中国勢との差別化を強化することにもつながる。経営陣はそうした展開を念頭に、今回の買収を決断したはずだ。日本製鉄の事業戦略は、国内でのリストラから、海外市場での成長強化へ、転換点を迎えた。
問題は、実行力に尽きる。率直に見て、不確実性は高い。USスチールの買収を発表した後、日本製鉄の株価は下落した。12月下旬、米国の株価は最高値を更新し、今は世界的に株高の傾向である。こうした状況下、買収リスクは大きいと言わざるを得ない。
日本製鉄が2兆円規模の買収負担に耐え、高付加価値の鉄鋼製品の製造技術を磨くことができるかどうか――主要投資家は慎重に考えざるを得ない。米国では、労働組合や一部の議員が買収に反対している。折しも最近は、全米自動車労働組合がストライキを起こしたように、企業経営に対する労働者の影響力が強くなっていることも懸念材料だ。
仮に米国政府の承認を得られたとしても、組織を1つにまとめることが難しければ、日米の鉄鋼メーカーが中国勢に対抗することは難しくなる。そうなると、日本製鉄の業績への懸念も出てきて、買収が事業運営の足かせとなる恐れも増す。
ただ、そうしたリスクも全て覚悟した上で、日本製鉄は買収に踏み切ったはずだ。先行きの不透明さはあるものの、買収が実を結び日本製鉄とUSスチールの事業運営の効率性が向上すれば、わが国企業の成長志向にも大きな変化をもたらすはずだ。