今回のテーマは、「“ミニマム・ライフコスト” で自分を守り挑戦する」です。
本連載は――「贅沢やムダを省いて超効率化して得る、時間・エネルギー・資金を人生の夢に投資して、可能性を最大化する」ための戦略書――『超ミニマル・ライフ』(四角大輔著)より、思考法と技法をご紹介します。著者の四角大輔氏は、レコード会社時代に10回のミリオンヒットを記録後、ニュージーランドに移住し、「組織・場所・時間・お金」に縛られない人生を設計してきた異色のベストセラー作家です。

【誰も気づいてない】「お金の不安」から自由になるたった一つの方法Photo: Adobe Stock

健康に生きるための最低限の生活費

 強力な心のセーフティネットがある。

「ミニマム・ライフコスト」というマネー哲学だ。

 断言しよう。

「生まれつきの億万長者」や「使いきれないほどの大金を稼ぎ続けること」を除き、「ミニマム・ライフコスト思考」を持って生きることが「お金の不安」から自由になる唯一の道だと。

3ヵ月かけて「ライフコスト=生活費」を、100円単位で計算しよう

 まず最低1ヵ月、できれば3ヵ月かけて「ライフコスト=生活費」を、100円単位(それ以下は四捨五入)で計算しよう。

 筆者のアドバイスを受けて実践した人のほぼ全員が「わずかこれだけで生活できるのか……!」と驚くからおもしろい。

 そこから2ヵ月かけて、ライフコストをさらに減らすのだ。

 そうやって算出した、「自分や家族が健康的に生きるために最低限必要な生活費」を「ミニマム・ライフコスト」と名付け、20代から今日に至るまで30年ほど実践し続けている。

 残念ながら、「なんだ家計簿か」とバカにする人は多い。そういう人はお金の呪縛から逃れられず、暴走するマネーシステムに翻弄(ほんろう)されながら人生を送ることになる。

 こう考えてみてほしい。

 あなたにとっての「家計簿」とは、法人における「PL表(損益計算書)」だと。

 PL表を付けず、「支出(損金)と収入(収益)」を把握していない会社の経営は間違いなく不安定となる。そんな企業の株を買おうなんて誰も思わないだろう。

 そういう視点で「家計簿を付けたことがない人」を見てほしい。

「生活にいくら必要か」と「どれくらい働けばそれをまかなえるか」を把握しないまま、常に「お金への不安」に追い立てられて働き続ける。そんな人は持続的にいい仕事はできないし、真に豊かな人生を送るのは難しいだろう。

 だが筆者に言わせると、資本主義社会に生きるほぼ全ての人がそういう状態に陥っている。

マネタイズを考えないライフワーク

 筆者が、ニュージーランドで半自給自足の暮らしを営んでいる理由は「ミニマム・ライフコスト」を極限まで下げるため。

 世捨て人のように思われるがそうじゃない。

 脱成長時代を生き抜くため、マネーシステムに翻弄されないため──そして、仕事で思い切った挑戦をするために設計した、実に機能的な人生戦略なのだ。

 ここ湖畔の森で営むミニマル・ライフは、組織やシステムに依存せず「お金に縛られない働き方」を可能にする。目指していた「自給自足サイドFIRE(※1)」だって実現できた(詳細は別の回でお伝えする)。

 ここでは、独身時代は月5万円、家族3人なら月15万円で豊かに暮らせる。「最低限これだけあれば大丈夫」とわかっていて、その「最低限」を稼ぐ術もあるので生きる不安はない。

 その結果、「人生で本当にやりたいこと=ライフワーク(※2)」に心おきなく集中できるようになった。

 筆者の場合、月15万円は「①メディアで記事を2本書く」「②1社の相談役を務める」「③オンラインイベントを2回実施する」のどれか1つでまかなえてしまう(その半分を不労所得でまかなう「自給自足サイドFIRE」なら、①記事1本か③イベント1回だけでOKとなる)。

 そして、理論上は「月15万円を稼ぐための労働以外は、何をしてもいい」ということになる。

 ①②③それぞれに要する時間は、ラフに見積もって2日ほど。簡略化して考えるならば、月30日間のうち2日だけ集中して働き、残りの28日間は完全なる自由時間となる。

 じゃあ、残りの28日間を、引退後の老人のようにのんびり暮らしたり、だらだらとゲームや動画に興じているかというと、そうじゃない。夢中になっている「ライフワーク」があるので、28日間の大半をそれに費やしている。

 ミニマル・ライフの強みは、「ライフワーク」でマネタイズを考えなくていい点にある。

 友人の有名起業家と対談した時、彼はこう言った。

「金儲けを考えた時点で、発想は小さくなって斬新なアイデアが出なくなる」

 その通りである。筆者自身も、社会人になってから一度も「稼ぐためだけ」に働いたことがない。

「素晴らしいアーティストと音楽のため」「誰かの役に立つコンテンツを提供したい」「社会にメッセージを届けたい」というように、常にお金以外の目的があった。

 そんな目的に邁進して働いていたら、自然に高いパフォーマンスを持続できていた。その結果、感謝の言葉と共に、考えもしなかった額のお金が巡ってきたのである。

 自分の心が望むライフワークで人や社会に貢献できれば、それほど幸せなことはない。金銭なんかよりこの喜びこそが、高いモチベーションを維持してくれることを体験的に知っていた。

 実はこの体感は、人類学で理論的な説明がされていた。

 長い人類史において、貨幣制度が普及したのは「数分前(※3)」と直近すぎるため、「お金のために働く」という感覚は、生存本能として我々のDNAにインストールされていないのだ。

 そして我らが祖先が──身体能力と知能面で人類より優れていた──ネアンデルタール人との生存競争に勝ち残った理由は「協力し、助けあう能力」が高かったからだという。

 つまり、ただ収入を得たいという「利己的」な行動よりも、仲間やコミュニティの役に立つような「利他的」な行動の方が合理的であり、正しい生存戦略ということになる。

 お金のためだけに生きることをやめるべき理由は、もう伝わったことだろう。

アーティストや起業家が 教えてくれる大切なこと

 仕事の関係で過去20年にわたり、多数の芸術家や音楽家、クリエイターや起業家から「どう生きるか」についての人生相談を受けてきた。

 彼らの最大の悩みが、「創作活動やプロダクト開発のための時間 vs. 生活費を稼ぐための時間」というバランスの取り方だ。

 アドバイスはいつも同じ。次の4つを実践してほしいと話す。

①「生活習慣5つの教え~睡眠・休息・食事・運動・遊び」を徹底して、いいパフォーマンス維持する
②「ミニマム・ライフコスト」を割り出して、それを最小化する
③それを稼ぐための「労働」以外の、全ての時間を「創作活動・プロダクト開発」に費やす(つまり「Dream Big!」)
④創作活動・プロダクト開発において「マネタイズ」を考えない

 まず、旧世代のアーティストたちは健康意識がとても低かったために、①を実践できた人はほぼ皆無だった。次世代でも、スタートアップの起業家の大半は実践できていないようである。

 ②と③は、世界中のアーティストや起業家が、昔から実践していたライフハックだ。家賃が安い倉庫街や都心から外れた場所に集まり、そこでミニマル・ライフを送りながら思う存分、自由に創作活動をしていた。

 例えば、トップブランドのお店が並ぶNYのソーホーや、トレンドの発信源となり地価が高騰したブルックリンはもともと、中心部から逃れた芸術家たちが移り住んだ地区。

 日本だと、東京の下北沢や中目黒などがそれにあたる。シリコンバレーだって、若い起業家たちが集ったことが始まりだ。

 彼らは金銭的には貧しかったが、志高く心は貧しくなかった。「どうすればお金をかけずに上質に暮らし、いいものを創れるか」と考え、アイデアとセンスの限界に挑み続けた。

 もし最初から大金があれば、そんな試行錯誤は不要となる。「お金」ではなく「頭脳と感性」をフル動員することで──後に大きく花ひらく──圧倒的な感性と創造性を磨き上げ、あきらめない心を育んだのである。

 そんな彼らの生き様は、お金で解決することが最も「非創造的な行為」であると教えてくれる。そして、そんなつまらない生き方はしたくないと思う。

 注目すべきは、社会を変えるインパクトを生み出したアーティストや起業家の多くが、幼少期から30代までにこのクリエイティブな清貧期を経験し、④を徹底していた点にある。

 つまり、金銭的なリターンを考えずに創作活動やプロダクト開発に熱中していたということだ。

 古い世代だと、ゴッホ、ココ・シャネル、孫正義氏など。最近だと、エド・シーラン、SHOWROOM代表の前田裕二氏、J.K.ローリングなど。ここに書ききれないほど無数にいる。

 何度でも言おう。「お金に縛られない生き方」は、超富裕層や特権階級だけのものではない。

「ミニマム・ライフコスト」を把握した上で、小さな勇気を持てれば誰にでも可能だ。さらに、社会や経済の混乱に振り回されない、インディペンデントな生き方だって実現できる。

 そして、「守り」のためだけじゃなく、人生を懸けたいと思うほどの「攻め」のためにこそ活用していただきたい。

(本記事は、『超ミニマル・ライフ』より、一部を抜粋・編集したものです)

【参考文献】
※1 「FIRE」とは「Financial Independence(経済的自立)、Retire Early(早期リタイア)」の略で、不労所得で生活費をまかない、働く必要がない状態のこと。「サイドFIRE」とは、不労所得に、好きな仕事からの副収入を掛け合わせたスタイルのこと。本連載では、通常の「FIRE」より何倍も実現性が高い「サイドFIRE」を推奨している。筆者が実践したのは、自給自足を掛け合わせることで、さらにリスクが低い「自給自足サイドFIRE」である
※2 外山滋比古『ライフワークの思想』旺文社文庫(1978)、本田健『「ライフワーク」で豊かに生きる』ゴマブックス(2014)
※3 人類史250万年を単純化した時間軸。「昨日」まで狩猟採集生活を送り、「数時間前=1万2000年前」の農耕革命をもって定住し、「数分前=200年前」の産業革命から物質的な豊かさを獲得し、「数秒前=10~30年前」からネット&スマホ社会となった