衝突の40秒前、JAL機はすでに着陸許可を得て降下中だったが、まだ滑走路から4~5キロ離れた地点を飛行中だった。航空管制官として中部国際空港や那覇空港で計17年間働いてきた田中秀和さんは、

「40秒とは、パイロットや管制官の感覚的にとても長い時間です。誰かが誤進入に気づいていれば、JAL機がゴーアラウンド(着陸やり直し)することができたと思われます」

 と指摘する。だが、誰も異変には気づかなかった。管制塔にある「滑走路占有監視支援機能」は正常に作動し、誤進入を知らせる警告が出ていたにもかかわらず、だ。

「40秒間、見落とされていたとすれば、不思議でなりません。また、気づいていた可能性も現時点では否定できません」(田中さん)

 では、JAL機側は、滑走路内に海保機がいることに気づくことはできたのだろうか。

 当時の機内では、副操縦士の社内審査に向けた訓練も行われており、業務を確認するためにもうひとりパイロットが乗り込んでいた。つまり、機長と合わせて計3人のパイロットがいたが、JALの聞き取りに対し、3人とも「海保機について視認できなかった」と話しているという。

 元JAL機長で航空評論家の小林宏之さんは、

「見えているのに突っ込んでいく、というのは考えにくい。JAL機側から見えなかったのは事実であろうと思います」

 と前置きしてから、

「海保機は通常の旅客機より小さく、離陸距離も短いため、滑走路のかなり前の方で停まっていた。そこに視線が向かなかった可能性はあると思います」

 と指摘する。

世界3位の混雑空港

 海保機、管制塔、JAL機。誰ひとりとして誤進入に反応しないまま過ぎた「空白の40秒」。それは、今回の事故で注目が集まった羽田空港の混雑ぶりと関係があるのだろうか。

 英国の航空情報会社OAGが発表した「世界の混雑空港ランキング」によると、2023年、羽田空港はアトランタ国際空港(米国)、ドバイ国際空港(UAE)に次いで世界3位。年間の発着数は約49万回で、混雑時には航空機が2、3分おきに発着している状態だ。今回の事故の当事者となった海保機は、そんな中、被災地へ向かう予定だった。

 著書『安全・快適エアラインはこれだ』(朝日新書)のある航空ジャーナリストの藤石金彌さんは、こう話す。

「臨時便でも、飛行に先立って行き先と時間などの飛行計画を提出するのは他の航空機と同じです。管制当局は提出された飛行計画に対し、運航の管制承認を出し、航空管制が始まります。臨時便があったとしても、実際の管制業務は通常とあまり変わらず進みます」

 空港の混雑ぶりが今回の事故の遠因になった可能性はあるものの、やはり「普通の夜」にヒューマンエラーによって引き起こされた大事故であったことは間違いなさそうだ。(編集部・古田真梨子)

AERA 2024年1月22日号より抜粋

AERA dot.より転載