昨年の梅毒感染者数は1万3000人を超え、3年連続で過去最多を更新した。
梅毒の自覚症状では「バラ疹」や粘膜のただれ、脱毛など皮膚症状が有名だが、眼や耳(内耳)に病変が出現することもある。俗に「眼梅毒」「耳(内耳)梅毒」と呼ばれ、感染の早期から、潜伏期間を経た晩期まで、いつどこで発症するかわからない。
後天性の眼梅毒の場合、感染3週間~3カ月間の第I期は、まぶたや結膜に潰瘍ができることが多い。ただし、自然治癒してしまうので通院には至らない。
皮膚症状がでてくる第II期になると、虹彩から眼球を覆っている組織に「梅毒性ぶどう膜炎」が生じ、眼の充血や痛み、まぶしさ、眼のかすみ、物が二重に見えるなどの自覚症状が現れる。
ここで眼科医を受診したとして、特徴的な皮膚症状があれば梅毒性を疑い、適切な検査や治療につなげられる。しかし、眼症状のみで「梅毒」を疑う眼科医はほぼいない。医師側にも、眼梅毒の診療経験がほとんどないからだ。
そのまま放置された場合、数十年後に再発し、最悪のケースでは失明に至ることもある。眼症状プラス、性感染症リスク行動に心当たりがある人は、眼科で速やかに自己申告する必要がある。
梅毒の原因菌は神経に感染しやすく、聴覚に関連する神経に炎症が生じ聴覚が障害される。そこで生じるのが耳梅毒で、自覚症状は難聴、耳鳴り、回転性のめまいなど。特に耳鳴りは、ほぼ必発だ。
耳梅毒の難聴は、音がはっきり聞こえるのに「語音明瞭度」が低下し、「お」「わ」「あ」などの聞き間違えが増える点が特徴。一般的な聴力検査で発覚した例もある。ただ、こちらも適切な診断のためには、リスク行動歴や梅毒感染歴などを自己申告するしかない。
ちなみに、ぶどう膜炎の1%に眼梅毒が関与し、難聴やめまいを主訴とする患者の3~6%は耳梅毒だという。感染者の増加を背景に、今後さらに増えそうだ。
幸い梅毒は抗菌薬で治療できる。受診のハードルが高い泌尿器科より、眼科や耳鼻科で検査と診断をしてもらうのも一つの手だろう。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)