どんな姿になっても、一緒にいよう。

 強く思いました。これからどんな体になっても、見た目や、彼の性格や行動が変わっても、慎太郎は慎太郎。その魂だけを見続けていよう、と。

ぼんやりしていた息子は
はっきりと強く呻いた

 その日の昼間、ぼんやりと慎太郎の意識が戻ってきました。私はずっとベッドサイドに腰掛けて、様子を見ておりました。手術が終わってもろくに食事は喉を通らず、かろうじて水分だけはとりながら、夫とかわるがわる息子を見守っていたのですが、彼がわずかに首を振り、目を開けようとしているので慌てて「慎太郎!」と呼びかけました。

「うん……」

「よく頑張ったね」

「うん……」

 息子は目を開かないまま、ぼんやりとした声で答えます。

「痛かった?」

「ううん」

「眠ってた?」

「うん……、海の中にいた……」

「海?」

「うん、海の中で、魚と泳いだ。……気持ちよかった」

 慎太郎はそう言って、また眠りに落ちていきました。それからしばらく経ち、もう一度慎太郎が目を覚ましました。今度は大きな息をフーっと吐き出し、はっきりと目を開けました。

 息子は何度か瞬きをしました。天井をじっと見上げています。

 隣にいた夫もその顔を覗き込みました。慎太郎は、いっそう目を見開いて天井を見つめました。私の声も、夫の声も、聞こえていないかのように目の奥に力がありません。何かが変だ、私は思いました。

「見えない」

 次の瞬間、慎太郎が呻くように言いました。

「見えない……見えない……」

 何度も瞬きをしながらしきりに天井を見つめています。

「見えない、なんにも見えない!」

 強く呻きました。

「見えないよ!」

 夫が看護師を呼び、続いてすぐに先生が入ってきました。先生は穏やかに、「一時的な後遺症です。安心して」と、慎太郎を落ち着かせようとしましたが、息子は暴れ出さんばかりに言いました。

「どうすればいいんですか。見えなかったら野球できません、野球できなかったら、僕はどうすればいいんですか!」

「いずれ見えるようになりますから……!」

 先生の言葉を聞きながらも、慎太郎の体は震えていました。恐怖よりも、やり場のない怒りに満ちていたようでした。