新時代をサバイブする武器としての
『学問のすすめ』7つの視点
諭吉が書いた『学問のすすめ』という書籍は、単純に修身の教科書のような読み物ではなく、日本の危機的状態に対処するためのサバイバル戦略と、国家と個人の変革を指南する切実な内容であることがおわかりいただけるのではないでしょうか。
『学問のすすめ』を日本の変革を導く戦略指南書であると捉え、以下の7つの視点で分析することで、真の姿をより鋭利に描き出すことができるようになります。
(1)変革に必要な意識と対策
西洋列強のアジア進出と、すでに多くの国家が植民地となってしまった現実を見据えて諭吉が出した「日本変革に必要な意識と対策」。日本はギリギリのところで西洋の植民地化を免れていますが、書籍『学問のすすめ』はどのような役割を果たしたのか。
(2)実学という新たな定義の威力
古い学問の賞味期限切れと、江戸幕府が海外情勢の変化に対処できなかったことには密接な関係がありました。日本が国家として、日本人が個人として生き残るために「学習対象を切り替える」必要性を諭吉は鋭く論じています。
(3)変革期のサバイバルスキル
先に「変革期に消え去る3つの勝者」についてご説明しましたが、変革期に直面する社会では、過去の多数派と同じ流れになんとなく付いていくことで、成功を維持することができません。何しろ、多数派自体が間違っている可能性が高まっているのですから。
(4)グローバル時代の人生戦略
比較検討の枠組みが急速に広がるグローバル化。幕末明治の日本と日本人は、半ば強制的にグローバル化を押し付けられた立場でしたが、対処しないわけにはいきませんでした。比較検討の枠組みが広がることで何が起きるのか。ガラパゴス化という言葉が象徴するように、内にこもりがちな日本と日本人が変化の時代にどう生きるべきなのか。
(5)難しい時代に必要なアタマの使い方
慣れ親しんだ過去と決別し、新しい時代に直面するとき、不安や悩みが続くことで「自分のアタマを使うことを放棄する人たち」が続々と出現します。良し悪しの判断力を磨くこともせず、新たな説を盲信して表層的な“開化先生”になる人物も増える時代、どのように私たちは自分のアタマを使うべきなのか。その具体的方法。
(6)歴史が教える「変革サイクル」の起動法
諭吉は幕末明治人には珍しく合計3回の海外渡航経験があり、幕府の使節団として米国・欧州を訪れています。さらに多くの洋学書を読破した諭吉は、各国の歴史が教える社会変革に共通する事項を見抜いていました。『学問のすすめ』には諭吉が天才的な頭脳で到達した、「国家の変革サイクル」を起動する方法が描かれているのです。
(7)日本の未来を創造するための鍵
諭吉はなぜ書籍『学問のすすめ』を書いたのか。なぜ日本を変革する戦略指南書となったのか。当時、日本を取り巻く環境と時代はどのように動いていたのか。中津藩の下級武士の家に生まれた諭吉青年が、自ら環境の壁を飛び越えながら学び、世界情勢と日本の現状を見比べて辿り着いた、未来を創造するための構造とは一体なんだったのか。
上記、7つの新たな視点での分析は『学問のすすめ』のまったく別の「真の姿」を映し出してくれます。諭吉は日本の国内戦争だった戊辰戦争で、東京の上野で大砲が鳴り響く中授業を行うような時代を体験し、自身が幕臣であることで江戸幕府内部がいかに時代遅れであったかを痛感していました。
一方で彼は攘夷(外国排斥運動)を強固に推進する薩摩長州側が勝利すれば、外国排斥が激化し、海外先進国の技術知識、文化を日本が学ぶことを拒むようになり、最終的に日本という国家が弱体化して西洋の植民地にされることも強く憂えました。
結果、彼の先見性と戦略性、世界情勢の中で日本という国がどうサバイバルすべきかという提言のすべてが『学問のすすめ』という類まれな書籍に昇華されていったのです。