変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

パーパス経営、DX、生成AI…「現場を苦しめる経営者」に共通するたった一つの特徴Photo: Adobe Stock

技術や理論は使い方を間違うと
現場の負荷になってしまう

 最近でいうとパーパス経営、デジタルトランスフォーメーション(DX)、生成AIの導入が注目されているように、いつの時代にも、さまざまな経営手法や技術が次々と生み出されています。これらは、正しく導入すれば、効率性やイノベーションを促進するカギとなるでしょう。

 しかし、これらの技術や理論を盲目的に追求することで、現場の実態との乖離が生じ、結果として従業員の過重労働やストレスが増大することにもつながりかねません。

 さらに、このような動きは従業員のモチベーション低下を招き、組織全体の生産性にまで悪影響を及ぼすこともあります。経営者は、新しい取り組みの導入を検討する際、その実用性と現場での実装可能性を十分に考慮する必要があります。

真のイノベーションは
引き算思考から始まる

 多くの経営者が新しい技術や手法を導入する際に見落としているのが、「引き算思考」です。新しい要素を加えることに集中するあまり、不必要なプロセスや既存の非効率な作業を見直すことがおろそかになっています。真の効率化とイノベーションは、加えることではなく、削ぎ落とすことから始まります

 引き算思考を実践することで、組織は不必要な業務を削減し、より価値のある活動にリソースを集中させることができます。これにより、従業員にとって働きやすい環境が整い、創造性と生産性が向上します。経営者は、新しい取り組みを追加する前に、既存の業務やプロセスを見直し、本当に必要なものだけを残す勇気を持つべきです。

アジャイル仕事術による実践的解決策

 アジャイル仕事術は、このような状況に対する有効なアプローチを提供します。この手法では、プロジェクトを小さな単位に分割し、短期間での成果出しを目指します。

 また、定期的なレビューを通じてプロジェクトの方向性を調整し、現場の声を反映させることにも重視します。これにより無駄な作業を省き、チームのモチベーションを維持しながら、組織全体の目標達成に貢献します。

 経営者は、新しい技術や手法を導入する際には、それが現場の負担増を招かぬよう慎重に検討し、アジャイル仕事術の原則を取り入れることで、持続可能な改善を目指すべきです。そうすれば、組織として変化に柔軟に対応し、従業員はその変化をポジティブに受け入れ、共に成長していくことができるでしょう。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。