変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。

現場が離れていく「時代遅れの上司」に共通する考え方Photo: Adobe Stock

「現場を分かっている」という幻想

 皆さんの周りには、現場を離れて久しいのに「私は誰よりも現場のことを熟知している」「新人の気持ちは誰よりも分かっている」と考えている上司はいないでしょうか。

 もちろん、そのような上司もかつては現場に出ていたし、新人だった時代もあります。しかし、日常的に現場の情報に直接触れていなければ、変化している環境に気づくことはできません。

 新たな技術が登場することで、私たちの仕事のやり方や考え方は常に変化しています。ここ数十年で、Eメール、メッセンジャーアプリ、ウェブ会議のようなコミュニケーションツールから、ERP(Enterprise Resource Planning)、クラウドコンピューティング、人工知能まで、さまざまな技術が登場しました。

 最近では、コロナ渦でリモートワークが一般的になり、初対面でもウェブ会議を実施することへの心理的なハードルが低下したのではないでしょうか。また、生成AIの出現によって仕事の進め方が変わったことを実感している人たちもいることでしょう。

会社は抽象化でできている

 古くから「百聞は一見に如かず」と言われますが、人が何かを伝えるために言語化をすると、その時点で情報が抽象化され、多くのものが捨象されます。

「現場を分かっている」と思っている上司は、会社が抽象化で成り立っていることを理解する必要があります。

 現場の営業担当者から聞く情報は、その時点で営業担当者の判断で抽象化された情報です。営業担当者が伝えたくない情報は意図的に省かれているかもしれませんし、伝えたい情報についても言語化された時点で真意が正しく伝わらないかもしれません。

 会社で使われる各種帳票も抽象化された情報です。なぜならば、言語化と同様に、数値化も抽象化だからです。そして、その数値化された情報が集計された帳票は、さらに抽象化されたものになります。昨年対比売上10%増という情報も、実は全体としては昨年対比で減少していて、一部の顧客からの売上が急増している可能性があります。

解像度が高くないと何も生み出せない

 上司がすべての現場に出向いて直接情報に触れることができない以上、抽象化された情報を基に判断する必要があります。しかし、仕事で成果を出し続けている上司は、抽象化された情報からも、重要な箇所の解像度を上げる方法をしっかりと理解しています。

 そのためには、自分なりの仮説を持った上で抽象化された情報を見聞きする必要があります。また、少しの変化にも気づけるように意識を研ぎ澄ませておかなければなりません。

「アジャイル仕事術」では、さまざまな人たちと連携して成果を出すための具体的な方法以外にも、働き方をバージョンアップするための技術をたくさん紹介しています。

坂田幸樹(さかた・こうき)
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。