みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。
プロボクサーは世界チャンピオンにならないと本業で食べていけない
日本でもお馴染みのボクシング元5階級制覇の伝説ボクサー、フロイド・メイウェザー。スポーツ選手長者番付1位を獲得するなど大金を稼ぎ、高級車・高級腕時計を自慢をするなど露骨な金持ちアピールをすることが多いため、「Money(金の亡者)」と呼ばれています。
これだけ聞くと、ボクシングはそんなに儲かるのか……、と思われるかもしれません。事実、メイウェザーのマニー・パッキャオ戦のファイトマネーは200億円と驚くべき金額でした。軽量級史上最大の一戦と言われた井上尚弥のスティーブン・フルトン戦はファイトマネーの合計が10億円(そのうち井上が6億円との噂あり)と言われ、日本人ボクサーでも実力・知名度ともに抜群であれば巨額なお金を得ることができます。
しかしプロボクサーの中でも巨額なお金を手に入れられるのはほんのわずかです。
プロボクサーにはサラリーマンのように定期的に団体やジムから給料をもらう仕組みはありません。プロボクサーの収入は基本ファイトマネーのみです。
ジム規模やチケットの販売、防衛回数やテレビ中継の有無によっても異なりますが、ランクによるファイトマネーは下記のような相場となっております。想定年収は年間試合数を3~5回として計算しています。
これを見てもらうと分かるように、一般のサラリーマン並みに稼ぐためには最低日本チャンピオンクラスになる必要があります。しかし、怪我のリスクや保障がないことを考えると、本業一本でやっていくためには世界チャンピオンにならなければ難しいのです。実際、プロボクサーがバイトを辞めるのは世界チャンピオンになってからが多いようです。つまり世の中のほとんどのプロボクサーは本業だけでは食べていけずバイトで生計を立てているわけですね。
プロレスラーは団体から定期的な報酬がもらえるためプロボクサーより生活が安定している
一方で同じプロ格闘技でもプロボクサーと比べて生活が安定しているのがプロレスラーです。もちろん、一般のサラリーマンと比較すれば遥かに不安定ではありますが、本業だけで生活している比率はプロボクサーよりも高いです。
その理由はプロボクサーのような試合ごとのファイトマネーではなく、所属団体から定期的に報酬が支払われる仕組みであることが大きいです。
プロレスラーの報酬は非公開という暗黙の了解があるようですが、かつての新日本プロレスのエースであり「闘魂三銃士」の一人である武藤敬司選手は『生涯現役という生き方』という著書の中で全盛期の年収が6000万円だったことを語っています。またある程度の固定ファンがついているようなレスラーであれば年収1000万円以上はザラにあるようです。下積み時代は報酬がほぼないことが多いようですが、住む場所と食事だけは団体に用意してもらえるため贅沢はできませんが生活に困ることはありません。そのような報酬体系や育成システムの違いからプロレスラーの方がプロボクサーと比較して生活は安定しやすいといえます。
プロレスラーの年間試合数はプロボクサーの30倍
このような報酬体系の違いはどこからくるのでしょうか?
それは年間の稼働率の差があります。
前述したようにプロボクサーの年間試合数は3~5試合です。一方プロレスラーの年間試合数はというと、“レインメーカー”の異名を持つ新日本プロレスのエース、オカダカズチカ選手の年間試合数は多い年で130~140試合です(※2024年1月31日に新日本プロレス退団)。全国巡業をするような大手のプロレス団体の興行は年間100を超え、トップレスラーは年間100試合以上をこなすことは珍しくありません。プロレスの人気が絶頂だった1980年代には一日2回のダブルヘッダーも珍しくなく、年間300もの試合をしていたようです。
このようにプロボクサーとプロレスラーでは年間の稼働が大きく異なります。ボクシングジムのように多くのアマチュアも含めたジムの月会費がないプロレス団体は興行で稼がないと経営が成り立たないので、数多くの興行をしなければいけません。
格闘技の聖地と言われる後楽園ホールの2023年10月の興行を見るとプロレス17興行、プロボクシング6興行とプロレスの方が多いです。なおプロレスは団体のバスを使って地方巡業をしていることもあり、地方に行くほどプロレスの比率は高まります。
収益構造や稼働率、そこから支払われる選手の報酬などの違いにより、プロレスラーの生活はプロボクサーより安定しているといえます。
(本原稿は、平野薫著『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』を抜粋、編集したものです)