みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。

なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?Photo: Adobe Stock

往復1時間かけて手数料の掛からない銀行でお金をおろすのは得なのか?

 所得が伸び悩み、様々な物の値段が上がる昨今、節約志向が強まっています。

 しかし、節約したいがために、あまりにも非効率的な行動をしている人が世の中には多い気がしています。

 例えば、私の友人は無駄な支出が大嫌いで、コンビニのATMでお金をおろすことに強い拒否反応を示します。どんなことがあっても時間内に口座のある銀行でしかお金をおろしません。時には往復1時間かけて口座のある銀行まで行ってお金をおろします。

 私から見るととても信じられない行動です。なぜなら1時間かけて節約できるお金はたった110円です(セブン銀行のATMでは口座のある銀行・利用時間に応じて110円~330円の手数料が発生)。1時間という人生の貴重な時間を投資して得られる経済的な対価は110円しかありません。これは時給110円の仕事をするのと同じことを意味します。ちなみにその友人に、往復1時間掛かる銀行でお金をおろす仕事があって、その報酬が110円だったらやる? と聞いたところ絶対にやらないと言われました。

「タイム・イズ・マネー」と昔から言われていますが、現代社会においては自分の持っている時間を切り売りすることで労働しお金を稼ぎます。適切な労働をすればもっと多くのお金を得ることができるかもしれないのに、少額の節約のために多大な時間を使っている人が世の中には多いと思います。

 一円でも安い商品を求めて猛暑の中、複数のスーパーを自転車で回る主婦を見ると、そんな時間があるならスキルを磨いて自宅でできるパートでもすればいいのにとつい思ってしまいます。節約は麻薬みたいなもので、それが目的化し周りが見えなくなることもあります。

 節約することが趣味であり、そのこと自体に喜びを感じるという方であれば全く問題ありません。しかし、人生を豊かにする手段として節約をするのであれば、投資する時間と削減できるお金のバランスをしっかり考えるべきだと思います。毎日入念にチラシを見てスーパーを何軒も回り、わざわざ遠くにある銀行でお金をおろす……。その結果、家族と会話をする時間が削られ、自分の趣味に使う時間もない……。更に言うとそういう人に限って、安いからといって商品を買いすぎダメにしてたりします(笑)。 

 前回の連載「なぜ時短家電を買う人は年収が高いのか?」で説明した通り、年収500万円の人の時給は2600円です。それを大幅に下回る節約はタイムパフォーマンスの視点から言うと実にもったいない時間の使い方です。

 経営コンサルタントという仕事柄、経営者など富裕層との付き合いが多いのですが、このような方々はとても忙しく、時間の価値をよく理解しています。だからこそ、110円の節約のために遠くの銀行にお金をおろしに行くことはまずありません。

 タクシーの利用が多いのもタクシーの方が早く目的地に到着でき、車内で仕事の電話や資料の確認などができるからです。ある一部上場企業の役員とオンラインミーティングをする際は結構な割合でタクシーの中からです。

 秘書を雇うのも、年間数百万の費用になりますが、単に楽をしたいというわけではなくそこで浮いた時間でそれ以上の収益をあげることができるという計算があるからです。

 富裕層はパソコンやスマホなどデジタル機器の買い替え頻度も高い方が多いです。デジタル機器は日進月歩で進化しており、古くなると処理速度が遅くなり作業効率も悪化します。更にバッテリーの持ちが悪くなると、いざという時に使えないというビジネスパーソンとして致命的な状況に陥る可能性があります。富裕層でボロボロになったスマホを使い、常にモバイルバッテリーを持ち歩くような方はあまり見かけません。

 外食をする際も、行列に並ぶ人は少ないです。行列に並ぶ時間がもったいないですし、疲労も溜まります。また無駄なトラブルに巻き込まれるリスクもあります。行きたい店があれば基本的に予約しますし、ランチをする際も混雑する時間は外していくものです。

往復何十万円も掛けて海外に行き、節約のために自炊をするのはもったいない

 最近、海外旅行に行って自炊するという話を聞くことがあります。海外ではインフレや円安が進み、外食した際の費用が高いというのが理由です。

 しかし、長期で行くバックパッカーのような旅行ならともかく往復何十万円もの費用を掛けて海外に行き、数回しかないディナーの機会を自炊で済ますというのは実にもったいないことだと感じます。もちろん、現地のスーパーで売っているものを食べたい、ホテルの部屋でゆっくり夕飯を楽しみたい、小さい子どもが居るので外食の負担が大きいなど特別な理由があれば別ですが、そこで節約のために自炊というのは、そこまで行く費用を考えるととてももったいない感じがしてしまいます。

 そこまで節約しないといけないなら無理に海外に行かずとも国内でも十分楽しい場所があると思うのですが……。

 節約というキーワードを肯定し過ぎず、自分の時間を切り売りする労働という感覚を持ち、バランスを大切にしたいですね。

なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?イラスト/春仲萌絵

(本原稿は、平野薫著なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?を抜粋、編集したものです)