プーチンが「若々しく」「民主的に」勝つためのロシア大統領選挙のカラクリ【池上彰・増田ユリヤ】

3月に迫るロシア大統領選挙。プーチン大統領が「若々しく」「民主的に」勝つために出された出馬条件とは?弾不足のウクライナに待ち受けるもう一つの試練とは?ジャーナリストの池上彰氏と増田ユリヤ氏が明かした。(ジャーナリスト 池上 彰、増田ユリヤ 構成/梶原麻衣子)

プーチン氏を利する人物しか
立候補できない

池上 国際的選挙イヤーの2024年。1月の台湾総統選挙に続き、3月にはロシアで大統領選挙が予定されています。

増田 選挙といっても、「プーチン勝利」という結果はもう決まったようなものではないでしょうか。

池上 佐藤優氏は、ロシアの大統領選挙は「悪い候補」と「とても悪い候補」「とてつもなく悪い候補」の中から選ぶ、と言っていました。プーチン氏は悪い候補だけれど、プーチン氏以外はもっと悪い候補だけが立候補するわけです。

増田 プーチン氏としては、自分が勝つことは決まっているにしても、選挙を経て国民に選ばれたという体裁は取り繕いたい。かといって、野党候補として支持を集めたナワリヌイ氏のような反プーチンの有力候補に出馬されては困る。ナワリヌイ氏は毒殺されかかった上に収監されるという憂き目に遭っています。

 選挙とはいってもプーチン氏を利するような人物しか立候補を許されない。結果、「プーチンの方がましだ」と票が集まるわけです。民主主義の悪用、のような話ですね。

池上 プーチン氏が2000年に大統領になってから、今年で丸24年。再選されれば、さらに1期6年、最大で2期12年は大統領でいることが可能です。

増田 プーチン氏は現在71歳。あと12年大統領を務めると83歳になります。「大統領の高齢化」は米国も共通する問題で、昨年末の米国取材の際に「米国には3億もの国民がいるのに、なぜバイデンやトランプのような高齢の候補しか出てこないのか」と憤慨する米国市民の声を聴きました。

 もっともロシアはプーチン氏の高齢化だけでなく、彼以外のまともな候補が出られないことが問題ですが。

ウクライナは弾不足で
近いうちに継戦能力を失う

池上 一部報道によると、ロシア大統領府は「50歳以上の候補」しか出馬を認めないとの通達を出したとか。これが本当なら、70歳のプーチン氏が年寄りに見えないようにという配慮の下、「民主的な選挙」が演出されることになります。

 ウクライナは、「民主主義を守る戦いである」ことを大義に掲げてロシアに対する抗戦を続けているからこそ、欧米からの支援を受けられました。しかし銃弾や砲弾を支援してきた北大西洋条約機構(NATO)諸国は冷戦終結以降、低下していた砲弾製造能力が現状に追い付かず、韓国で製造された同じ規格の銃弾が回り回ってウクライナの戦場に送られている状況です。

増田 米国の支援策でいえば、バイデン政権は昨年8月に追加予算を議会に要請しましたが、共和党の反対で認められませんでした。共和党の昔ながらの保守派はウクライナ支援を支持していますが、トランプ派の声の大きな議員たちが反対しているのです。

 そのため、米国はウクライナに追加の支援を行う予算がない状況です。すでにウクライナ側は「弾不足」でロシア軍を迎撃できなくなりつつあり、このままではウクライナは近いうちに戦争継続能力を失います。

 もう一つ、ウクライナには試練が待っています。