新日本酒紀行「神蔵」酒蔵外観 Photo by Yohko Yamamoto

京都の街中で最古の酒蔵が挑む、見て飲んで買える新スタイル

 京都御所の東方、鴨川近くに立つ松井酒造は、酒造りが見学でき、その場で飲めて酒が買え、英語もOKとあって国内外の観光客に大人気。創業は1726年に兵庫県香美町で、江戸末期に京都へ移る。決して順風満帆ではなく、幕末の混乱時は元治の大火で蔵が焼失。路面電車の工事で移転を余儀なくされ、良い水を求めて13代目が現在地へ。酒は金閣寺はじめ寺社仏閣から用命を受けたが、地下鉄が蔵近くまで迫り、水質が保てないと判断して酒造りを休業。蔵はマンションになった。

 2009年、14代目の松井八束穂さんが酒蔵復活を決意。「一緒に酒造りするぞ」と当時大学生の息子の成樹さんに宣言。井戸を深く掘り質の良い軟水を得て、1階を酒蔵に改装。小型の醸造設備を集めて空調設備を調え、四季醸造も可能に。成樹さんは、伏見の黄桜の手作り蔵で修業した後、松井酒造で能登杜氏に付いて酒造りを2年間行う。12年に杜氏、19年に社長へ就任し、15代目松井治右衛門の名を踏襲。