新日本酒紀行「旭日」歴史ある東蔵 Photo by Yohko Yamamoto

近江の地酒と食文化を伝える!総ケヤキ造りの酒蔵

 滋賀県の琵琶湖は面積約670平方キロメートル、貯水量275億トンと日本最大で最古の淡水湖。湖東側の愛荘町は近江盆地の中心部で、鈴鹿山脈の豊かな水に恵まれた穀倉地帯だ。昔からの交通の要衝であるこの地で、1831年に創業した藤居本家。7代目の藤居鐵也さんは、全量滋賀県産の酒米で酒を醸し、地酒に特化する。日本酒の文化価値を伝えたいと酒蔵見学を行い、かつて酒造りをした、総ケヤキ造りで国の登録有形文化財の東蔵で歴史や醸造を語る。蔵の最深部の貯蔵庫は、4本の丸柱が大きな蔵を支えていて圧巻だ。2022年には蔵の一画を改装し、近江の食文化を味わう「かくれ蔵 藤居」を新設。また、年に数回、蔵開きを開催し、そのときに提案するのが郷土の酒肴だ。琵琶湖で取れるスジエビを大豆と甘辛く煮たえび豆や、丁子麩の辛子あえなど、地の米で醸したうま味ある酒がピタリと合う。現在、酒造りは少し離れた宮蔵で行い、能登杜氏の外村一さんが指揮を執る。伝統製法の生酛造りには定評がある。

 蔵の顔である店も総ケヤキ造りで、樹齢700年の丸柱が伸びる2階には200畳の大広間があり、建築関係の見学者も多い。設計したのは、11年に100歳で天寿を全うした鐵也さんの母、先代の静子さんだ。大学で医学を専攻、独学で建築を学んで木材選びから関わった。「何千年の歴史が育んだ酒造技術と、四季が巡ってできる米を丹精込めて醸すのが日本酒」と鐵也さん。代表銘柄の「旭日」をはじめ、日本の酒の文化が凝縮する。