こうした事情があったので、2008年当時の格差問題では、正社員と派遣社員の格差という点に注目が集まりました。しかし、その裏にあったのは、「バブル崩壊前に正社員になれた世代」と「バブル崩壊後なのであまり正社員になれなかった世代」との世代間の格差という問題でした。

 終身雇用の慣行がある日本の大企業では、正社員になればめったに解雇されません。賃金が年功序列で決まるので、バブル前入社の中高年社員は、給料も高いということになります。企業の側としては低価格競争で生き残るためには低コストにならなければならないので、「終身雇用は維持するが、給与の上昇幅は引き下げる」という解決策をとるしかありませんでした。

 このため、「派遣社員の給与水準が低い」だけではなく、「正社員の給与水準も低い」「バブル前入社の社員の給与も昔の中高年よりは低い」ということになったのです。

日本の格差問題の真相は
「みんなが貧しくなった」

 結果、格差が開いたわけではなく、所得格差の水準を表すジニ係数でみても、日本はやや低い側に分類されているのです。日本にはアメリカの大富豪のような人がほとんどいませんから、そのこともあって格差が小さいということになっています。

 つまり、日本の所得に関する問題は、実は「所得格差」ではなくで、「低所得化」の方が深刻だったということが言えます。平均賃金が増えていないという問題です。派遣社員だけではなく正社員も、若手社員だけではなく中高年も、賃金がほぼ上がってきませんでした。

 では、この「低所得化」は今後も続くのでしょうか。実はここで人口構成の問題が、いい方向に作用します。大企業の職場ではバブル前に入社した社員が今後続々と定年退職していきます。企業としては高給与の社員が退職してくれるので、若手社員に入れ替えれば人件費が下がります。業務量がそれほど減るわけではないので、退職者による人員の減少分を新卒社員で埋めようとします。

 しかし、今の新卒社員の世代の人数は1学年当たりで団塊世代の半分以下ですから、減少分を埋めるほどの数を採用することは困難です。最近の若い社員は転職に対しても肯定的ですから、給料が低い会社からは、給料の高い会社に転職していってしまうリスクがあります。なので、これからは「売り手市場」(社員になる側の立場が強い)になり、給与は上がる方向になります。