「猫撫で声」で話すリーダーが、実は部下を“見くびっている理由”

ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』（ダイヤモンド社）では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。

自分より「優秀な社員」に助けてもらう

「リーダーは偉くない」

　楽天野球団の社長になったとき、僕はそう自分に言い聞かせていました。

　それは、前職であったメリルリンチ日本証券時代の「痛恨の失敗」から学んだことでした（詳しくはこちらの記事を参照）。そもそも、ひとりで成し遂げることができる「小さな目標」ならば、リーダーという存在など必要ありません。多くの人々の力を貸してもらわなければ達成することのできない「大きな目標」だからこそ、リーダーという存在が必要になるのです。

　であれば、リーダーが「自分は他の人よりも偉い」などと思い上がっているようでは話になりません。そうではなく、自分の「弱点」や「できないこと」を認めたうえで、それを補ってくれたり、助けてくれる社員たちに心からの「敬意」を払うことが、リーダーの出発点であるはず。もっと言えば、自分よりも「優秀な社員」に思う存分に力を発揮してもらうことに、リーダーの真骨頂がある――。そう自分に言い聞かせていたのです。

「敬意」を払うとは、
妙に「へりくだる」ことではない

　ただし、「敬意」を払うとは、妙に「へりくだる」ことではないと思います。
　社長と部長、社長と課長、社長と一般社員など、それぞれの立場や役割を踏まえながらも、あくまで対等な人間として、自分が「正しい」と思うこと、自分が「やるべきだ」と思うことを、本気でぶつけ合う。これこそが、本当の意味で「相手に敬意を払う」ことだと思うのです。

　だから僕は、僕の「正しい」と思うことを、ストレートに社員たちに伝えました。
　もちろん、相手の性格や気質に応じて「言い方」には配慮したつもりですが、妙な手加減はしません。どちらかというと僕はやんちゃなタイプなので、やや乱暴な言葉を使ってしまった場面もあったかもしれませんが、猫撫で声で話すのも気持ち悪いし、偽善的だと思います。

　いや、そういう表面的なカモフラージュで「関係性」を築こうとすること自体が、そもそも社員を見くびっている証拠ではないでしょうか。そして、そんな嘘をいくら上手に塗り重ねても、本当の意味での「信頼関係」など生まれはしないと思うのです。

リーダーにとって「決定的に重要」なこととは？

　むしろ、「信頼関係」を築くために大切なのは、リーダーである僕が、社員がぶつけてくる「意見」「主張」にしっかりと耳を傾けることです。

　僕の主張に対して、社員が「それは違う」と思ったときには、「反論」をぶつけてもらえる存在でなければならない。そして、社員の「反論」にしっかり耳を傾けたうえで、お互いの「意見」を戦わせることが大切だと思うのです。

　そのプロセスによって、僕の「考え」はブラッシュアップされますし、時には、僕が間違っていたことに気付かされることもあります。その場合には、自分の間違いを素直に認めることが決定的に大事です。あるいは、「お前がそれが正しいと思うなら、やってみればいいじゃないか」と、社員の背中を押したことも何度もあります。