もちろん、最終的には、リーダーである僕が全責任を負うことを当然の前提として、僕の主張を押し通すこともありますが、お互いに「意見」を戦わせるプロセスを経ているからこそ、「コイツがそこまで言うなら、しょうがない。協力してやるか」と思ってもらえる可能性が生まれるのだと思います。
このような形で、「意見」をぶつけ合うことこそが、お互いに「敬意」を払うことだと思いますし、その積み重ねによってしか、本当の意味での「信頼関係」は生まれないのだと思うのです。

僕が、「お弁当を完売」して喜ぶ社員を叱った理由

 そんなわけで、僕は、社員たちに「自分の考え」をガンガンぶつけていきました。
 その結果、「そんな、むちゃくちゃなこと言わないでくださいよ」などと何度も言われたものです。

 たとえば、地方の市民球場での試合で、ゲーム開始前に500個のお弁当を完売したことがあるのですが、「やった、やった!」と喜んでいる社員たちを見たときに、思わず「それは違うだろ!」と叱ったことがあります。

 本当にお客さまのことを考えるならば、500個では足りなかったことを反省すべきだし、なんとかお弁当を補充するために、即座に走り回るべきでしょう。しかも、そうすることによって、楽天野球団の売上は増えるわけです。それなのに、能天気に喜んでいることに、正直、腹が立ったのです。

「むちゃくちゃ」な目標設定をして焦りまくった…

 そして僕は、叱りつけたうえで、「次の試合は、2000個のお弁当を売ろう!」とぶち上げました。もちろん、「そんなの無理に決まってるじゃないですか」「むちゃくちゃ言わないでくださいよ」と非難轟々。だけど、僕は一歩も引きませんでした。「とにかくやってみよう。失敗したら、俺が全責任を取るから」と押し切ったのです。

 ところが、これは、実際に「むちゃくちゃ」だったんです。
 というのは、僕が言い張った「2000個」という数字は恥ずかしながら、思いつきで根拠のない数字だったからです。

 冷静になって考えると、その球場が満席になったとしても2万人。ということは、10人にひとりのお客さまが買ってくださらないと「2000個」は完売できない計算になります。「簡単には達成できない高い目標」を課すつもりではいたんですが、これはさすがに“やりすぎ”でした……。社員たちには「大丈夫だよ!」と笑顔を見せていましたが、内心では「やっべー!」と焦っていました。

「簡単なこと」を達成しても楽しくない

 だから、僕自身、全社員の先頭に立って、必死で走り回りました。
 社員のみんなも、最初は「マジかよ?」という顔をしながら手伝ってくれました。

 とはいえ、在庫は山ほどある。どうしたら完売できる? あーだこーだと議論しているときに、「よし、選手のサインをつけよう」と誰かが思いつき、お弁当を買ってくれたお客さまにはガラガラをやっていただき、「当たり」が出たら選手やコーチのサインボールをプレゼントするという“裏ワザ”を繰り出すことにしました。

 その結果、かなり苦戦はしたものの、試合終了ギリギリのタイミングで、どうにかこうにか「2000個の完売」を達成。これには、全員がむちゃくちゃ盛り上がりました。何事もそうですが、「簡単なこと」を達成しても、たいして嬉しくはありません。「難しいこと」を達成するからこそ楽しいんです。

「自画自賛」かつ「結果論」ではありますが、僕が「むちゃくちゃなこと」を言い張ったからこそ、あの「達成感」や「一体感」を全員で味わうことができたのではないかと思います。そして、「俺たちは、やればできる!」という、自分たちのチームワークに対する自信もついたように思うのです。

むちゃくちゃの目標の「裏の狙い」とは?

 また、実は、僕には「裏の狙い」もありました。

 それまで、社員がお客さまと直接話す機会はほとんどなかったのですが、「2000個のお弁当」を完売するためには、全社員がお客さまに声をかけて売り歩かなければなりません。そのときに、お客さまとのコミュニケーションが発生することに意味があると思ったのです。

 なぜなら、経理担当であろうが、広告担当であろうが、すべての社員の仕事は、究極的には「お客さまに喜んでいただくこと」にほかなりません。であれば、お客さまと直接触れ合う経験は必須。とうよりも、お客さまと触れ合ったこともない社員が、「お客さまに喜んでいただく仕事」などできるはずがないのです。

 しかも、お客さまにすれば、球団社員と言葉を交わす機会はそんなにありません。
 そのときに気持ちよいコミュニケーションができれば、きっと球団に対して好印象をもってくださるに違いありません。その意味でも、「2000個のお弁当」という無理難題は有意義だったと思いますし、こんなイベントをきっかけに、社員がお客さまと直接触れ合う機会を徐々に増やしていくことができたのです。

雨のなかで「ウォーターキャノン」を噴射!

 ただし、「むちゃくちゃ」だったのは、決して僕だけではありません。