ビジネスパーソンにとって、自分が手がけたプロジェクトや商品、サービスが大当たりすることほどうれしいことはありません。しかし、市場のトレンドが次々と変化するいま、「これなら絶対に成果が出る」という戦略を立てることは非常に難しくなっています。
そこで今回は、ビジネスの成功法則を「マーケティング」の視点から全解剖した新刊『メガヒットが連発する 殻を破る思考法』の著者で、「ファブリーズ」「綾鷹」「檸檬堂」などを次々に大ヒットさせた伝説のマーケター・和佐高志氏に、P&Gジャパンのマーケティング術について聞いてみました。
(聞き手は『頭のいい人が話す前に考えていること』の著者・安達裕哉氏)

「あなたの買ったもの、全部見せてください」…P&Gが“スーパーへの買い出し”をわざわざ現場リサーチする理由Photo:Adobe Stock

マーケティングの「本質」とは?

安達裕哉(以下、安達) 和佐さんは、キャリアを通じてずっとマーケティングに携わってこられたんですよね。

和佐高志(以下、和佐) そうですね。「マーケティング」をテーマに大学の卒業論文を書いたこともあり、P&Gジャパン・マーケティング本部に新卒で入社したのが1990年でした。

 そこで18年間、ブランドマーケティングやセールス部門に籍を置いたほか、最後の3年半はジェネラルマネージャー(GM)も務めました。

安達 P&Gは「マーケティングが強い」というイメージがありますが、何か独自のやり方があるんでしょうか?

和佐 P&Gでは、マーケティングを「長期的に利益を出し続ける仕組み作り」と定義しています。そして、それを実現するため、マーケティング部門の担当者は研究開発チームや工場とともに、商品・サービスの開発段階からコミットしていきます。

 日本の企業では、完成した商品の「プロモーション」や「広告作り」がマーケティングの仕事だと捉えられがちですが、P&Gは違います。開発から販売までの全プロセスに深く関わって、「利益を出し続ける仕組み」を作るのがマーケティングの職務なんです。

安達 日本企業でマーケティング部門が開発に深入りするケースはあまり聞かないですね。

和佐 P&Gでは、パンパースやファブリーズ、レノアといった各商品に「ブランドマネジャー」というポジションがあって、さまざまな部署を巻き込みながらブランドという「1つの事業体」の利益を管理します。

 このポジションは、入社5~6年目に抜擢されることが多いですが、誰もが自動的にブランドマネジャーになれるわけではなく、かなりシビアな競争を勝ち抜く必要があります。

 ブランドマネジャーの後は、化粧品や洗剤などの「カテゴリー」のマネジャー、そしてGMへと上がっていきますが、どのポジションであっても「長期的に利益を出し続ける仕組み作り」というミッションは変わりません。
 
安達 そうすると、たとえばP&Gから日本企業に移ったときに、マーケティング部門の職掌範囲の狭さに戸惑うこともありそうですね。

和佐 そういうケースはあると思います。ただ、仮にマーケティング部門の権限が小さくても、P&G時代と同じように関係部署を巻き込みながら開発から販売まで一気通貫でコミットしていけばいいだけです。

 実際、マーケティング部門が中心になってプロジェクトを進める手法は、西洋ではスタンダード化しています