韓国で世論調査をすると、「核武装すべきだ」という回答が半数を超える――これは今に始まったことではない。唯一の戦争被爆国、日本からするとギョッとするような動向だが、北朝鮮が核戦力高度化を進める中、韓国では「核攻撃を受けた時、米国は本当に核で北朝鮮に反撃してくれるのか」と米国の核の傘に対する疑心が深まっているからだ。2月上旬、韓国のシンクタンクの研究者が東京都内で講演を行い、「日本も核兵器を」と主張。聴衆が虚を突かれる一幕があった。(ジャーナリスト 小野原遼成)
「日本の核兵器で中国の核けん制を」
虚を突かれた聴衆
「韓国の核兵器で北朝鮮の核兵器をけん制し、日本の核兵器で中国の核兵器をけん制できれば、北東アジアでどの国も他国への侵略を試みることはできないでしょう」
「米国がもはや世界の警察の役割を担いたがらないのなら、韓国と日本は自らを守るため立ち上がらなければなりません」
2月1日、韓国世宗研究所の鄭成長・韓半島戦略センター長が、東京都内で行われた緊急時局講演会でこう訴えた。1980年代に設立された世宗研究所は、韓国を代表する外交安保シンクタンクである。
鄭氏は韓国側の事情について話す想定だったが、終盤で思いがけず日本の核武装にも言及したため、会場は虚を突かれた雰囲気に。講演会の主催者側が「日本の核武装を促進しようという意図は全くない」と断りを入れる場面もあった。
鄭氏は、核武装を訴える有識者らの団体「韓国核自強戦略フォーラム」の代表も務める。講演会では、「私は決して極右の専門家ではなく、中道に近い。私は韓国で右に出る者がいないほどの平和主義者です」と自身を紹介していた。鄭氏の北朝鮮分析には定評があり、北朝鮮関連の重要ニュースがあると、内外の記者にタイムリーな分析資料を提供し、重宝がられている人物だ。キワモノ扱いの研究者ではなく“まとも”な鄭氏が核武装論をぶち上げた当初は世間も驚いた。
鄭氏は、2016年に北朝鮮が水爆実験に成功したと発表したのを契機に、もはや韓国が独自の核武装に踏み切るしかないという結論に至ったという。北朝鮮の非核化は不可能と判断しており、「力の均衡による平和維持こそが現実的」と説く。