「日本海を、核搭載の北朝鮮潜水艦20隻が
潜航する状況を想像せよ」

 実際、北朝鮮は国際社会の経済制裁や新型コロナウイルス禍による国境封鎖にもかかわらず、核・ミサイル開発を着実に進めてきた。奇襲発射が可能な固体燃料型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)で米国をけん制しつつ、朝鮮半島周辺では昨年9月に「戦術核攻撃潜水艦」を進水させたとし、 近海からの核攻撃の態勢を整えようとしている。

 鄭氏は「北朝鮮が保有する20隻余りの潜水艦すべてに戦術核攻撃が可能な改造を加え、日本海に潜航させていることを想像してみてください。なんと恐ろしいことか」と訴える。実際、北朝鮮は今年に入り既に5回と異例のペースで巡航ミサイルを発射。戦術核弾頭の搭載を想定した訓練とみられており、射程内の韓国や在日米軍基地を抱える日本に対する脅威が増している。

 2022年11~12月に韓国で成人男女1000人を対象に行われた世論調査では、実に76.6%が韓国独自の核開発が必要だと答えた。この背景には、韓国国民の間で米軍による自国防衛への信頼が揺らいだことがある。

 トランプ前大統領が在任中、北朝鮮と対話する一方で在韓米軍の撤退をチラつかせて韓国に駐留経費負担の大幅増額を求めたり、米韓合同軍事演習を「戦争ゲーム」と卑下したりしたことが影響しているとみられる。

「ロシアにやりたいようにやれと勧める」……
トランプ氏暴言で米防衛に懸念

 2023年4月の米韓首脳会談で米国の拡大抑止を再確認した「ワシントン宣言」が発表された後に行われた別の世論調査では、核武装賛成が約60%にとどまった。“米国不信”払拭に向けた米韓政府の取り組みは、一定程度、効果をもたらしたようだ。

 米韓は同年7月には拡大抑止の運用を話し合う「米韓核協議グループ(NCG)」の初会合を開催し、 10~12月には米空母ロナルド・レーガンやカール・ビンソン、米海軍の原子力潜水艦ミズーリが相次いで韓国南部・釜山に入港したことを公開。北朝鮮へのにらみを利かせていることをアピールした。

 そんな中で、再びトランプ氏が韓国を含む国際世論を驚愕させた。秋の大統領選に向けた共和党の候補者指名レースで独走中の同氏は2月10日、米南部サウスカロライナ州での集会で演説。前回の大統領在任中に北大西洋条約機構(NATO)に加盟する“ある大国”の首脳から、「応分の負担をしなくてもロシアの侵攻から守ってくれるのか?」と問われ、「守らない。彼ら(ロシア)にやりたいようにやれと勧めるだろう」と言ってのけたという内幕を暴露したのだ。

 各種の世論調査では、高齢が不安視される民主党のバイデン大統領をトランプ氏がわずかにリードしている。トランプ氏が再選すれば、同盟国の間で米国による防衛への懸念が強まるのは必至だ。

 米国の外交専門シンクタンク・シカゴ国際問題評議会の世論調査では「北朝鮮が韓国に侵攻する場合、米軍が韓国を防衛すべきだ」という回答がここ数年下落傾向にある。2021年には63%だったが、2023年秋の調査では50%にとどまり、反対(49%)と拮抗している。