こうした状況を受け、鄭氏は「米国民の多くが戦争への疲労感を感じており、ウクライナに対する米国の軍事支援も中断または削減される可能性がある状況で、北朝鮮の誤判による核使用と核戦争を防ぐために、最も効果的な方法は韓国の独自の核保有だ」と力説する。

尹政権は現時点で消極的
世論動向次第では核武装もあり得る

 尹錫悦大統領は、現時点では核武装に消極的だ。今年2月7日に録画放送されたKBSとのインタビュー番組で独自核開発について問われた際、自国の科学技術をもってすれば、決心さえすればそれほど時間はかからないとしつつも「我々が今、核を開発するとすれば、おそらく北朝鮮と同じように多様な経済制裁を受けることになり、そうなれば韓国経済は深刻な打撃を受けるだろう。だから現実的ではない話だ」と語った。

 ただ、保守系の有力政治家からは「北朝鮮の核に対する防御システムを作るよりも、独自の核兵器を開発する方が効率的だ」(呉世勲ソウル市長)などの声も上がる。

 もしトランプ氏が再選し、尹政権が苦労してバイデン政権と合意した「ワシントン宣言」の効力が弱まり、再び同盟弱体化への韓国世論の不安が高まる事態となれば、核武装論への支持が再び高まると鄭氏は予測する。展開次第では尹政権の安保政策や日米韓の安保協力にも影響しかねず、隣国の日本としても目が離せない状況になってきているのだ。

被爆国・日本は
韓国と共に米新政権の説得を

「核には核を」という論理は非常に分かりやすく、北朝鮮が核による威嚇を続ける中、被爆経験を持たない韓国で核武装への支持が広がるのは自然な流れなのかもしれない。私は、ソウルの知人が、北朝鮮が6回目の核実験を行ったというニュースに対し「わが民族も着実に核保有国への道を歩んでいるな」と感慨深げに話すのを聞いて驚いたこともある。急速な経済成長を遂げた韓国が大国として認められるためには最後は核保有が必要、という意見を持つ人もいる。

 しかし、仮に韓国が核を持つことになれば朝鮮半島で核戦力増強レースが展開されるのはもちろん、軍事的な計算ミスによる核攻撃のリスクも発生する。核武装の前例ができれば、周辺国や世界の国々が追随する「核ドミノ」を誘発する懸念もある。そうなれば米ロ中英仏の5カ国だけに核保有を認める、核拡散防止条約(NPT)体制が大きく揺らいでしまう。

 広島、長崎の被爆経験を持つ日本は、核のもたらす惨禍について積極的に発信してこれ以上の核拡散を防ぐ努力を尽くすとともに、北朝鮮や中国の軍事的脅威から地域の平和と安定を守るコミットメントを引き続き果たすよう、韓国と共に来年1月発足の米新政権を説得する外交戦略が求められる。