「空いた実家をそのまま貸せばいい」とお話しすると、「リフォームが必要なんでしょう?」とか「そもそも大都市近郊だと可能な話で地方では無理なんしょう?」という反応がかえってくることが多いと語るのは、不動産投資家で空き家再生コンサルタントの吉原泰典さん。その質問に対しては「古くても地方でも大丈夫!貸せます」と多くの方が驚かれるそうです。本連載では、「貸すか売るか自分で使うか」判断の分かれ目はどこなのか? なぜ「そのまま貸す」ことがお勧めなのか? などを解説し、「誰もすまなくなった実家」をそのまま貸すためのノウハウを話題の書『「空いた実家」は、そのまま貸しなさい』の中からご紹介していきます。
空き家の条件別に4つのパターンで考える
ここで、誰も住まなくなった実家を①立地、②物件種別、③所有関係、④残置物の4つの基準でパターン分けし、前回の連載で紹介した5つの選択肢(①空き家のまま現状維持で判断を「先送り」②早めに「売却」③他人に「貸す」④民泊やゲストハウスとして利用⑤自分で住んだり、別荘として利用)との関係を整理してみましょう。これによって例えば賃貸と売却のどちらを選ぶか、どこまでリフォームするのか、といった判断がしやすくなります。
4つの条件について補足しておきます。
①立地とは、どこに実家があるかということです。いま自分が生活している場所からどれくらい遠いか、行くのにどれだけ時間とコストがかかるかということでもあります。
例えば、いま東京に住んでいて誰も住まなくなった実家が首都圏近郊にある場合、車で1~2時間もあれば行き来することは可能です。そういう場合は毎月1回程度、週末に建物を見に行って維持管理することは可能でしょう。売ったり貸したりするだけでなく、別荘として使うこともできます。
逆に、自分が東京に住んでいて実家が北海道や九州、沖縄にあるとなると、そう簡単に行き来するわけにはいきません。自分で維持管理するハードルは高く、売るか貸すか何らかの手を打つ必要性は高くなります。
②物件種別とは、戸建てかマンションかということです。
この連載で想定しているのは戸建てですが、誰も住まなくなった実家の中には分譲マンションというケースもあるでしょう。
分譲マンションは室内(専有部分)は別として、エントランスや廊下など共用部分は管理組合が管理しており、比較的きれいに保たれているはずです。貸したり売ったりするのは木造戸建てより容易でしょう。また、分譲マンションでは毎月、管理費や修繕積立金を払わなければならず、所有しているだけでかなりコストがかかります。通常、戸建てほどは無関心にほったらかしということにはならないと思います。
③所有関係とは、誰も住まなくなった実家の土地・建物の所有権がどうなっているかということです。具体的には、自分一人が所有権を持っているのか、それとも兄弟姉妹やその他親族との共有になっているかです。
共有になっていると、実家の扱いを決める際に法律上の問題が出てきます。民法上、共有については細かい規定があります。基本的には相続の際に、相続人のうち誰か一人が誰も住まなくなった実家の所有権を持つようにするほうが対応しやすいといえます。
④残置物とは、建物の中に置いてある遺品や家財です。これが多いと売るにしても貸すにしてもハードルが高くなります。ほとんどないほうが望ましいのですが、なかなかそうはいかないでしょう。
残置物についてはもう一つ、廃棄物として処分するのか、それとも売れるものは売るよう手配するかというのも重要なポイントです。これについてはこれからの連載の中で詳しく取り上げます。
「売る」か「貸す」かは、地元の不動産会社の意見も参考に
誰も住まなくなった実家をどうするかでよく問題になるのは、「売る」のか「貸す」のかという判断です。
これは地元の不動産会社に聞いて確認するのがベストです。
例えば東京に住んでいる人が自分の知り合いの東京にある不動産会社やその関係者に聞いても、地方の不動産市場のことがわかるわけではありません。必ず、実家のある地元の不動産会社、それも複数、目安としては最低5社、できれば10社ほどに聞いてみてください。
そして、「売るとしたらいくらくらいで売れるか」「貸すとしたら月いくらで貸せるか」を提案してもらいます。具体的な数値を把握することが大切です。
基本的には、貸すことのできる物件は投資用として売ることもできます。逆にいうと、立地や建物の状況などから貸せない物件は、売るのも難しいでしょう。
となると、売るか貸すかの分かれ目は、すぐにまとまったキャッシュがほしいかどうかという点に集約できます。すぐ売ってまとまったキャッシュがほしいというのでなければ、定期借家契約で賃貸に出しておいてタイミングを見て売却するのがいいと思います。
もう一つの判断材料は、売却可能価格と月額想定賃料のバランスです。
例えば、戸建ての実家をすぐ売るとしたら1000万円、貸すとしたら月額8万円といわれたケースを考えてみましょう。
貸した場合は単純計算で年間96万円になり、5年で480万円、10年で960万円になります。固定資産税等や修繕費等などの経費を差し引いても900万円ほどは手元に残るでしょう。年間で96万円を定期的に得るか、一括で1000万円を現金化するかの判断です。
こう聞くと、一般的には「しばらく貸しておいて、そのうちタイミングを見て売ればいいのでは」と思う人が多いのではないでしょうか。
売却と賃貸ではターゲットの層が違う
以上はあくまでシミュレーション上の話ですが、決して根拠のないものではありません。ポイントは、売る場合と貸す場合では想定される相手(買い手や借り手)の人数や経済力にかなり違いがあるということです。
地方になればなるほど、いくら安いといっても1000万円という資金(ローンを含めて)を用意できる人は限られます。一方、毎月8万円で戸建てが借りられるとなれば、かなり多くの人がターゲットになります。だからまずは貸せばいいのです。
また、「貸す」場合もずっと貸し続ける必要はありません。例えば、実家を借りて住んでくれている人に売るという方法があります。ある程度、長く住んで気に入ってくれている場合、わざわざ引っ越すのも面倒なのでローンを組んで買ってくれたりするのです。
さらにいえば、実家のあるエリアの周辺で再開発などがあれば通常、周辺の地価も上昇するのでそういうタイミングを待てるというのも賃貸に出すメリットです。
地方の空き家といえばなんでもかんでも「すぐ売ればいい」というわけではないことは覚えておいてください。
貸せる物件、貸せない物件の分かれ目
私は誰も住まなくなった実家は、「貸す」ことを優先するべきだと考えています。とはいえ、どんな家でも貸せるかというとそうではありません。
まず、屋根や壁から雨漏りがしたり、柱や梁が傷んでいて倒壊リスクがあったり、過去に繰り返し浸水被害にあっているような物件は「貸せない」物件です。なぜなら、入居者の生命や家財に被害が及ぶ可能性が高いからです。
もう一つは、電気・ガス・水道などが使えない物件です。こうした物件は一時的な滞在は可能であっても、生活の拠点として使うことはできません。
ただし、誰も住まなくなった実家についていえば、もともとそれができていたはずなので、比較的簡単に直せるとは思います。わざわざ新たに水道やガスを引くというレベルの話ではないでしょう。
このように入居者の生命や財産に危険がある家、生活インフラが使えない物件でなければ、基本的に貸せます。どんな地方でも「借りたい」と思う人はいるはずです。
さらに、貸せるか貸せないかの分かれ目としては「借り手がいるかどうか」ということです。「貸せるかどうか」と「借り手がいるかどうか」というのは同じことのように聞こえますが、自分の判断基準と借り手の判断基準は同じではないという点が重要です。
自分の感覚、自分の目線で「こんな家は貸せない」と考えてしまっている人が少なくありません。そういう人ほど「絶対貸せないからすぐ売っちゃいたい」「ただでもあげたい」とおっしゃいます。
その心の奥にあるのは、「自分は住みたくない」という無意識です。人によって住居選びの判断基準は驚くほど違います。山奥の古びた民家であったり、離島の小屋のような家であっても住みたい、使いたいと思う人はいます。そのことを私は自分の実家のケースやコンサルティングの経験から断言できます。
(本原稿は、吉原泰典著『「空いた実家」は、