日本の少子化対策は“正解”なのだろうか? 2023年に生まれた子どもの数は75万8631人(速報値)で過去最少を更新した。結婚も減っていて、23年の結婚件数は48万9281組(速報値)。50万組を下回ったのは1933年以来、90年ぶりだという。『人口は未来を語る』(NHK出版)が話題の英国の人口学者が「少子化は政策より個人の思想が影響する」と語る理由とは?(人口学者 ポール・モーランド 取材/国際ジャーナリスト 大野和基)

日本は高齢社会の「実験室」
抜け出せるか、世界が注視

 Demography(人口動態)は未来を映すレンズです。その国の人口動態を見ると、その国がどういう未来になるかわかります。日本は直近50年間、人口置換水準(※)をかなり下回っています。※人口が増加も減少もしない均衡した状態となる合計特殊出生率のこと

ポール・モーランドポール・モーランド 人口学者。オックスフォード大学セント・アントニーズ・カレッジの上級会員。オックスフォード大学で哲学・政治・経済の学士号、国際関係論の修士号を取得。ロンドン大学で博士号を取得。イギリス、ドイツの市民権を持つ。作家・放送作家として、現代および歴史的な世界の人口動向について執筆・講演を行うほか、フィナンシャル・タイムズ紙、サンデー・タイムズ紙、テレグラフ紙など多くの新聞や雑誌に寄稿。著書に『人口で語る世界史』(文藝春秋)などがある。ロンドン在住。

 50年間も人口置換水準をかなり下回ると、何が起きるのか? 日本はまさにVanguard(先駆け)であり、「実験室」でもあります。日本を見れば高齢化する社会がどうなっていくのか、また、そこから抜け出せるかどうかも世界が注視しています。

 さて、Demographic transition(人口転換)について少し説明しましょう。1800年より前の世界を想像してください。ほとんどの人は結婚して6~8人の子どもをつくっていました。高い出生率、高い死亡率、そして少ない人口。これが、近代人口学の父と言われるトマス・マルサスが描写した世界です。この時、世界はまさに変革の直前でした。

 そして産業革命が19世紀初期の英国で、続いて日本では20世紀初期に起きます。産業革命によって食料供給が大幅に増え、平均寿命が延び、人口が急増しました。次に、避妊術が普及し、出生率を制御することが可能になります。人口置換水準を維持する、安定したレベルの人口に達しました。

 これが典型的な人口転換で、ヨーロッパから始まり、世界に広がりました。問題は、その後です。死亡率が低く、女性1人当たりが産む子どもの数が2人という人口維持の状態のままになるか。あるいは生まれる子どもが少なく、平均寿命が延びて、高齢者が増え、若者が減少するか。