柔軟剤や制汗剤などに含まれる香料が原因で、頭痛や目まい、吐き気などの体調不良を訴える「化学物質過敏症」に苦しむ人が増えてきているといわれる。「香害」という言葉とともに語られることが多い症状で、患者だけでなく医療関係者でも治療を諦める人が多いという。しかし、自身も患者だった医師は「化学物質過敏症は治る病気であるにもかかわらず、その事実がゆがめられてきた」と指摘する。(イトモス研究所所長 小倉健一)
自身も患者だった医師が訴える
「化学物質過敏症は治る病気」
「香害」という言葉とセットで次第に知られるようになってきた「化学物質過敏症」とは、香料やたばこの煙、柔軟剤、化学薬品など、一般の人ではあまり意識できない低濃度の化学物質に過敏に反応する状態を指す。患者は、化学物質にさらされると頭痛、目まい、吐き気、皮膚の発疹、呼吸困難、疲労感など多様な症状を経験することがある。
これらの症状は、特定の化学物質に対する暴露(何らかの物質、環境、または状況に直接的または間接的に触れること)が原因であると考えられており、治療を諦める患者や医療関係者は多い。
自身も化学物質過敏症の患者であった医師・舩越典子氏(典子エンジェルクリニック・堺市)は「化学物質過敏症は治る病気であるにもかかわらず、患者の思い込みや特定の医師による誤った誘導などによって、その事実がゆがめられてきた」と指摘する。「化学物質過敏症」の現状を舩越医師に聞いた。
「化学物質過敏症」とはどんな病気?
その“治療法”とは?
――舩越医師自身も経験したという「化学物質過敏症」とはどのような病気なのか。
一般で市販されている柔軟剤を使用した衣類を着ると気分が悪くなる。たばこの臭いがすると頭が痛くなる。ひどい場合は、ウェブ会議で「(物理的に接触していない人が)たばこを吸っている人を画面越しに見ただけで目まいがする」といった症状を訴える患者もいる。最後の例に至っては「過敏」どころか「妄想」が入ってしまうケースだが、こうした症例が多くある。
私自身も化学物質過敏症の患者だった。その頃の動画がまだ残っているのだが、洗剤が微量に残っている衣類を着ることができなくなった。自宅以外の屋内で空気を吸い込むのもつらくなっていき、ハンカチで口元を押さえてもダメ、タオルで押さえてもダメになった。
どうしても外出しなくてはいけない、例えば運転免許証の更新の際には、防毒マスクを着けて行った。そのとき本当につらかったのは、室内で講習ビデオを見なくてはいけないことだった。教室の窓を全て開けてもらい、防毒マスクをしながら、やっとの思いで講習を終えた。
当時は化学物質過敏症の原因は、外部環境のせいだと刷り込まれていた。症状を和らげるためには「化学物質を避けるしかない」と、化学物質過敏症支援センターの広田しのぶ理事長や、化学物質過敏症専門診療「そよ風クリニック」の宮田幹夫医師に言われた。そうすると、とにかく原因となりそうなものを避けて生活するしかなくなる。柔軟剤もダメ、抗菌洗剤や殺虫剤、防虫剤もダメ、外へ出るのも難しいとなると、生活の質(QOL)がどんどん下がっていった。
――しかし、本当は「治る病気」であり、実際に舩越医師も治療によって症状はなくなり、元気に診療を再開できている。現在、報道などで接する化学物質過敏症のイメージと実態の違いは何か。