みなさんは、世の中のちょっとした変化に敏感でしょうか。
数字に強い人は、ちょっとした変化に「違和感」を感じ、自分で仮説をたてて、その理由を数字で考えていきます。
経営コンサルタントとしてこれまで2000社の財務分析、1000人以上のビジネスパーソンに会計セミナーを実施してきた平野薫氏は、①世の中の事象に違和感を持つ→②違和感にフォーカスする→③自分なりに仮説を立てる→④数字で根拠を分析し検証する→⑤人に話したりブログに書いてアウトプットする、という一連のルーティンを日々継続して行うことが数字に強くなるコツだと言います。まずは、「違和感」を放置せずフォーカスすることが大切なのです。
本連載では、「世の中のふとした疑問を数字で考えるエピソード」が満載の話題の書籍『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』から一部抜粋し、数字に強くなるエッセンスをお届けします。
原油価格は2年で7倍と驚異の高騰!
コロナ禍での需要減少やロシアのウクライナ侵攻により、ここ数年、原油価格が乱高下しています。
テキサス州西部を中心とした地域で産出される米国の代表的な原油である(West Texas Intermediate)価格はコロナの流行拡大初期の需要が減少した2020年4月には月間平均で1バレル16.52ドルまで下落、しかしその後の需要回復とロシアのウクライナ侵攻に伴い2022年6月には月間平均で114.59ドルまで高騰しました。月間平均価格で見ると実に7倍の価格差です。
年間平均で見ても、1990年代には1バレル10ドル台だったものがその後乱高下し、コロナ禍初期の2020年に39.31ドルだったものが2022年には94.43ドルと2年間で2.4倍になりました。
原油価格が上がることで価格が上昇する身近なものといえばガソリンです。確かに原油価格高騰後に自家用車でガソリンを給油した際に、随分高いなと感じることが多くなりました。しかし、原油価格が上がったほどガソリン価格が上がったかというとそこまでではありません。
資源エネルギー庁が毎週発表している全国のガソリン店頭価格(税込)を見ると、2020年以降で最も安かったのは2020年5月11日週の124.8円/l、逆に最も高かったのは2023年9月4日週の186.5円/lです。比較すると1.5倍になります。
ガソリン価格に占める原油コストは全体の30~40%でしかない
原油価格が月間平均価格で7倍、変動が緩やかになる年間平均価格でも2.4倍になっているにもかかわらず、なぜガソリン価格はそこまで大きな変動がないのでしょうか?
価格転嫁ができずに石油元売りやガソリンスタンドがコスト増加分を吸収しているのかというと、原油価格上昇のタイミングで石油元売り会社はこぞって最高益を計上していますし、元々それほど大きなマージンを得ているわけでもないガソリンスタンドでコストを吸収する余裕もありません。元々ガソリンは他の小売商品と比べても相場に連動して価格が変動するというものという印象があるため、タイムリーな価格転嫁が可能です。
それでは一体何が要因なのか? それはガソリンのコスト構造が影響しています。下の図は資源エネルギー庁が出している資料をベースに算出したガソリンのコスト構造です。
図を見ていただくと分かるように、ガソリンには1l当たり53.8円の揮発油税と2.54円の石油石炭税、合わせて56.34円の特殊な税金が掛けられています。更にここに10%の消費税が掛かるので、原油価格が安いタイミングでは価格の半分以上が税金になります。その他に流通マージンや精製マージンなど原油コストが変動してもそこまで大きく変わらないコストもあるため、純粋に原油コストが全体に占める割合は30~40%程度でしかありません。
このようなコスト構造になっているからこそ、原油価格の上昇幅と比べてガソリンの価格変動は小さいものになるのです。なお、アメリカは日本の揮発油税と石油石炭税にあたる税金が大幅に少なく、コストに占める原油コストの割合が大きいため今回の原油価格上昇局面では小売価格が大幅に上昇する結果になっています。
ガソリン価格の高騰を抑制するために石油元売り会社に補助金を給付
なお現在は政府がガソリン価格の高騰を抑制するために石油元売り会社に補助金を給付していることも変動を抑える要因となっています。
私も経営コンサルタントとして企業の業績改善を進めることがありますが、コスト削減に着手する上で重要なのは全体に与えるインパクトを把握することです。全体の占める割合が大きいものほど削減の効果は大きいため、そのような項目から削減できるか優先的に考えます。数字で全体感を見ることは改善を進める上でとても重要です。
(本原稿は、平野薫著『なぜコンビニでお金をおろさない人はお金持ちになれないのか?』を抜粋、編集したものです)