大切なのは「選択」と「意志」の時代

 ノーベル賞を受賞し、『エデンの東』などの作品で知られるアメリカ人作家、ジョン・スタインベックの言葉に、「天才とは山の頂上まで蝶を追う少年である」というものがあります。

 夢を持ちなさい、夢を見ることを忘れないように、と大人はつい子どもに言ってしまいます。しかし、夢を見ている瞬間は、現実的な「目標」になっていないのもよくあることです。

 けれど、スタインベッックが語った「少年」は、努力して山を登ったのではなく、目の前の蝶に「夢中」になっていたのです。遠くにある夢に憧れていたのではなく、「夢の中に入って」いた。このような精神状況を“フロー状態”と呼びます。努力は時に残酷にも人を裏切ることがありますが、夢中は決して人を裏切らない。

 まだ見ぬ未来というのは、誰にとっても不安に感じられるでしょう。けれど、フロー状態における根拠のない自信こそ最大の武器です。それは未来におびえて備えることより、今に夢中になることで生まれます。

 今日のランチで食べるお弁当もおいしいし、明日食べる高級レストランでのディナーもまたおいしい。今日生きていることを無駄にして、見えない未来に捧げようと思わなくてもいい。今、苦境に立たされていても、「視点の解像度」を上げて、それも人生のハイライトの一つととらえてみる。

 根拠のない自信と、クランボルツの言う「好奇心」「持続性」「柔軟性」「楽観性」「冒険心」で突き進んでいきながら、少しずつ可能性を現実にしていくこと。それこそ人生をデザインすることだと思います。僕がノマド・トーキョーで出会ったライフデザイナーたちは、突出した才能やスキル、お金ではなく、「選択」と「意志」があれば、自分だけの人生をつくれることを証明しています。

 しかし、特にノマドを巡る論争では、弱肉強食の自由競争の中、強い者しか勝ち残れない、そういった自己責任論が強く喧伝されています。しかし、僕が伝えたいのは真逆です。「持たざる者」こそ、さまざまなライフデザインの実践法や工夫を自分にインストールしてほしいのです。

 新しい働き方・生き方論に対しては、必ず、「どうせ特殊な人がやっていること」「すべてを自己責任とすることの限界」という意見があると思います。でも、自分の現状と取り巻く社会のネガティブな要素を一つ一つ見つめていてもキリがないし、自分の言葉は自分の人生の魔法にもなれば、呪いにもなります。冷笑的になっていても現実は変わりません。何と言っても、僕らにとって最も貴重な時間、一回きりの人生が過ぎ去っていくだけです。あれこれと難癖をつけるよりもやってみること。つくってしまうこと。それこそライフデザインの本質です。