我が社かよ!優秀な人材に「見捨てられる会社」の恐るべき共通点とは自転車で現れた鎌田敬介さん。都内の移動は「そのほうが早いから」ほぼ自転車だという。20代後半から国際会議での講演や運営に関与し、国際連携や海外セキュリティ機関の設立を支援。日本の大手金融機関でサイバーセキュリティに従事後、金融ISACの設立を主導。元ゲーマーで、遊び心のあるサイバー攻撃対応の演習が得意 Photo by Akira Honda.

少し遅い桜の開花とともに入社式が終わった。新入社員の早期戦力化と離職が悩みの種となるシーズンの到来だ。辞めてほしくない人材に見限られる会社には、共通点があるという。日本、米国、エストニア、ASEAN諸国などでサイバーセキュリティ人材の育成に取り組み、組織の問題にも詳しい、Armoris 取締役専務 CTO 鎌田敬介さんに聞いた。(ノンフィクションライター 酒井真弓)

「リスクがある」「前例がない」
自分の頭で考えてこなかった代償

酒井:優秀な人材に見限られる会社には、どんな共通点があるのでしょうか。

鎌田:一言でいうと、仕事を前に進められない。延々と議論して結論を先延ばしにする、部下の企画書にダメ出しして無限に時間を浪費させるといったことは、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

「リサーチ不足」「今のプランではリスクがある」というから一生懸命問題点をつぶしていったのに、「前例がない」の一言で振り出しに戻される。何度も修正させられたあげく、最終的にOKが出たのは最初に出した企画書だったというケースもあります。

酒井:何度も修正させるのは、一発でOKを出すと、自分が仕事をしていないように思われるからでしょうか?

鎌田:いや、自分もそうやって指導されてきたから、それが普通だと思っているのです。しかし、完璧な企画書に仕上げることが、何の価値を生み出すというのでしょうか。大切なのは企画書ではなく、ビジネスを前に進めることです。

酒井:まさに、「手段の目的化」が起こっているというわけですね。

鎌田:こうなる原因は、自分の頭で考えてこなかったことにあると思います。「ガイドラインには何て書いてあるんだ」「当局は何と言っているんだ」「ベンダーの言い分は」「競合他社は」――これらを参考に、どうすれば実現できるのかを考えるのではなく、「リスクがあるからやめておこう」と、大事な決断を外的要因に委ねてきてしまった。長い間そういう仕事の仕方をしていたら、どんな人でも自分の力で考えられなくなってしまいます。