ゴールドマン・サックスなど外資系金融で実績を上げたのち、東北楽天ゴールデンイーグルス社長として「日本一」と「収益拡大」を達成。現在は、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の社長にして、日本企業成長支援ファンド「PROSPER」の代表として活躍中の立花陽三さん。初の著作である『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)では、ビジネス現場での「成功」と「失敗」を赤裸々に明かしつつ、「リーダーシップの秘密」をあますことなく書いていただきました。リーダーだからといって「格好」をつけるのではなく、自分の「欠点」や「弱点」を素直に受け入れて、それをメンバーに助けてもらう。つまり、「リーダーは偉くない」と認識することが、「強いチーム」をつくる出発点だ――。そんな「立花流リーダーシップ」に触れると、きっと勇気が湧いてくるはずです。
「どれだけお金をかけてもいいから、
球場を満員にしてみろ」
球場を満員にする──。
僕は楽天野球団の社長になってすぐに、この「旗」を掲げましたが、正直なところ、どうすれば「満員」にできるのかわかりませんでした。それは、社員たちも同様でした。というか、「球場を満員にする」という「旗」を見ても、なんとなくピンときてないようで、僕には、それがすごくもどかしく感じられました。
正直なところ、「殿様商売」になっているんじゃないか、とさえ思いました。
スーツ組(営業、広報、総務、会計などビジネス周りを担当する社員)は、「チームが勝てば、お客さまが来てくれる」「チームが勝てないんだから、客席がガラガラでもしょうがない」と考えているのではないか? さらには、「いざとなれば、親会社である楽天が助けてくれる」と考えているのではないか? だから、「なんとしても満員にしよう」という気迫に欠けるのではないか? 僕の心のなかに、そんな疑念がふつふつと湧き上がったのです。
そこで、営業部長だった森井誠之さん(現・楽天野球団社長)に、「今年のシーズン中にどうしても満員にしたい。どうすればいい?」と聞いてみました。
というのは、球場が満員になったときに、何が起こるのか全く見えてなかったからです。ファンが押し寄せても、安全面に問題はないか? どのくらいグッズが売れて、どのくらいビールが売れるのか? こうしたことが、何一つわからなかった。これでは、作戦の立てようもないから、「今年のシーズン中にどうしても満員にしたい」と強く要請したのです。
すると、彼はこう答えました。
「無料で招待すれば満員にできます。他球団はやってますよ」
それまで、楽天野球団としては「無料招待券」はNGだったために、「満員」にすることができなかったというわけです。そこで、僕はこのような指示をしました。
「だったら、やってみてよ。無料招待券を使ってもいいから、満員にしてみせてくれ。広告を出してもいい。お金が多少かかってもいいから、とにかく満員にするんだ」
一部の営業マンからは「招待券を使うなんて、私たちのプライドが許さない」などと反発する声も上がりましたが、「プライド、プライドと言いながら、球場に空席があるじゃないか。プライドがあるんなら、満員にしてみせてくれ」と僕は一蹴。いわば、僕は社員全員に喧嘩を売るような形になったわけです。
1971年東京都生まれ。小学生時代からラグビーをはじめ、成蹊高校在学中に高等学校日本代表候補選手に選ばれる。慶應義塾大学入学後、慶應ラグビー部で“猛練習”の洗礼を浴びる。大学卒業後、約18年間にわたりアメリカの投資銀行業界に身を置く。新卒でソロモン・ブラザーズ証券(現シティグループ証券)に入社。1999年に転職したゴールドマン・サックス証券で実績を上げ、マネージング・ディレクターになる。金融業界のみならず実業界にも人脈を広げる。特に、元ラグビー日本代表監督の故・宿澤広朗氏(三井住友銀行取締役専務執行役員)との親交を深める。その後、メリルリンチ日本証券(現BofA証券)に引き抜かれ、数十人の営業マンを統括するも、リーダーシップの難しさを痛感する。2012年、東北楽天ゴールデンイーグルス社長に就任。託された使命は「優勝」と「黒字化」。星野仙一監督をサポートして、2013年に球団初のリーグ優勝、日本シリーズ制覇を達成。また、球団創設時に98万人、就任時に117万人だった観客動員数を182万人に、売上も93億円から146億円に伸ばした。2017年には楽天ヴィッセル神戸社長も兼務することとなり、2020年に天皇杯JFA第99回全日本サッカー選手権大会で優勝した。2021年に楽天グループの全役職を退任したのち、宮城県塩釜市の廻鮮寿司「塩釜港」の創業者・鎌田秀也氏から相談を受け、同社社長に就任。すでに、仙台店、東京銀座店などをオープンし、今後さらに、世界に挑戦すべく準備を進めている。また、Plan・Do・Seeの野田豊加代表取締役と日本企業成長支援ファンド「PROSPER」を創設して、地方から日本を熱くすることにチャレンジしている。著書に『リーダーは偉くない。』(ダイヤモンド社)がある。