仮想空間での五感体験をデザインする
――そうした開発には、アイデアやデザインだけでなく、技術面のバックアップも重要になってきそうです。
山本 多くのプロトタイプは、グループ会社のJVCケンウッド・エンジニアリングの協力を得て製作しています。19年から始まった、バーチャル空間上で五感体験を探る取り組み「3rd Place Lab」は、同社のエンジニアとの二人三脚となりました。
最初にリリースした「Okutamaverse」では、「親しい人とコミュニケーションしたり、癒やされたりする」仮想空間をつくるために、アバターにあえてリアルな本人の顔を使っています。さらに、ヘッドセットもコントローラーも使わず直感的に操作できる「ゼロUI」を実現するために、ジェスチャーを認識するUIを開発しました。22年に子ども向けを想定してアップデートした「Forestverse」では、顔の動きに使うジェスチャーUIで特許も取得しました。
――センスウエア・プロトタイピングを進める上で、意識していることは何でしょうか。
山本 大事にしているのは「音」です。狭い仮想空間でも、音があることで広がりを感じさせることができます。情報の8割は視覚から得られると言いますが、視覚に感覚を独占させないようにしたいと考えています。
真っ暗にすることで、空間のイメージが膨らむということもあります。情報を絞り、人の想像力を引き出すことで、豊かな五感体験につながる可能性を意識しています。
――こうした取り組みは、社内からはどのように受け取られ、どんな期待を寄せられているのでしょうか。
守屋 こうしたデザイン活動は、直接的ではなくとも、事業につながる提案の素地づくりや、実験の場としての役割を果たしています。
なぜなら、単に現在の市場動向や技術動向に沿うだけではなく、未来の顧客ニーズを予測し、それに応えるビジョンを描くことを目指しているからです。グループ内からは、このような取り組みが、長期的な視点で事業成長を促すために重要な要素であると認識されているのではないでしょうか。同時にデザイナーには、未来志向の体験価値を、事業のあらゆる側面に反映させることが期待されています。
近年、デザインと事業部門の共創は、ますます増えてきました。特に新規商品の企画やビジョン作りの中で、デザイナーの果たす役割がより重要になってきています。これは、デザインに対する期待が、従来の色や形といった狭義のデザインを超え、顧客を起点として物事を考える、広義のデザインとして捉える視点へ変化してきているからではないでしょうか。デザインと事業の関係性がより広範にわたり、それに伴ってデザインの役割も拡大していることを実感しています。
柳沼広紀 JVCケンウッド・デザイン ビジネスデザインオフィス アシスタントプロジェクトリーダー。2008年よりエコデザインのプロジェクトを企画し、独自研究として推進する。10年、人と自然をつなぐForest Notesを提案し、製品・アプリケーション開発、サービス立ち上げ、システム実装までの一連を担当。現在も各地域や関係者と連携したプロジェクトを進行中。
山本俊輔 JVCケンウッド・デザイン ビジョンデザインオフィス プロジェクトリーダー。プロダクトデザイナーとして経験を積んだ後、さまざまな社内外の共創プロジェクトの推進や新規事業の立ち上げを支援。現在は未来を描くビジョンデザインを担当するとともに、センスウエア・プロトタイピングやForestverseなどのアドバンスデザイン活動を進行中。
守屋克浩 JVCケンウッド・デザイン インターフェースデザインスタジオ スタジオ長。ホームオーディオ、カーナビ・カーオーディオなどの車載機器、無線通信機器などを中心に多くのプロダクトデザインを担当し、2018年よりマネジメントに携わる。21年よりブランドエクスペリエンススタジオ長として、ハードウエアの開発、ならびにKENWOOD、JVC、Victorの三つのプロダクトブランドのマネジメントを担当し、24年4月より現職。
公益財団法人日本インダストリアルデザイン協会(JIDA) https://www.jida.or.jp/
プロフェッショナルなインダストリアルデザインに関する唯一の全国組織。「調査・研究」「セミナー」「体験活動」「資格付与」「ミュージアム」「交流」という6つの事業を通して、プロフェッショナルな能力の向上とインダストリアルデザインの深化充実に貢献する。