ヤマハ発動機のインハウスデザイン組織が「デザイン本部」から「クリエイティブ本部」へと衣替えして再出発したのは2020年4月。同社が掲げる長期ビジョン<ART for Human Possibilities>の先導者としての役割を期待されてのことだ。それから丸4年。ヤマハ発動機のデザインDNAを継承しながら、新たな価値創出に取り組む同本部の活動の今とこれからについて、前後編に分けてクリエイティブ本部長の木下拓也氏に聞く。(聞き手/音なぎ省一郎、坂田征彦、構成/フリーライター 小林直美、撮影/まくらあさみ)
クリエイティブ本部の役割は「未来」を目に見える形にすること
──クリエイティブ本部の概要を教えてください。
2020年に発足したインハウスのデザイン組織です。前身の「デザイン本部」は製品デザインと先行デザインが主な役割でしたが、クリエイティブ本部になってから、ブランドコミュニケーションやイノベーションのためのリサーチ機能が大幅に強化されました。人員的には、製品デザインとそれ以外が6:4ぐらい。事業部門からも、研究・開発部門からも独立した組織として、それぞれの部門と戦いながらいいものを作る仕組みになっています。
──戦い、ですか。
「デザインの正義」と「会社の正義」の戦いです。これには歴史的な経緯があって、創業以来、12年にデザイン本部を立ち上げるまで、製品デザインの多くは、東京藝術大学の学生グループにルーツを持つGKデザイングループに外部委託してきました。外部のデザイン組織が、開発の正義やビジネスの正義と闘いながら、どちらの正義も勝つように着地させてきた。それが「デザインのヤマハ」の基盤をつくったのです。もし最初から社内でデザインしていたら、デザインが会社のロジックに負けていたかもしれません。現在のクリエイティブ本部が高い独立性を持っているのは、この良き伝統を引き継いだものです。
──今、多くの企業でデザイン部門が製品開発や事業開発の上流から関わろうという動きが活発です。御社ではいかがでしょうか。
上流から関わる場合もそうでない場合もありますが、製品開発のイニシアチブを取るのはあくまで事業部門や開発部門ですし、最終的な承認も事業部側です。ただし、先行デザインやショーモデルの開発、プロトタイピングはクリエイティブ本部が主導します。生き物みたいに自立して動くオートバイ<MOTOROiD(モトロイド)>をジャパンモビリティーショーで発表したり、人と人が気持ちを通じ合わせることで生まれる感動を体験できるゲームみたいなインスタレーション<e-plegona(イ・プレゴナ)>を楽器のヤマハと共同でSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト=米国のクリエイティブ・カンファレンス)2023に出展したりといった動きは主体的に行っています。
クリエイティブ本部の役割は、ステークホルダーにそれぞれの「未来を魅せる」ことだと思っています。足元の製品を通じて「現在のヤマハ発動機」のイメージをつくっているのは事業部門ですが、「未来のオートバイは?」「未来のヤマハ発動機が創造する価値は?」という問いに答えるのはクリエイティブ本部だと思っています。