課題は多い中でも、EISJは2023年にようやくフルハウスとなった。10年をかけて1年生から12年生までがすべてそろったのだ。はじめは低い年次の子供たちだけだったが、生徒も学校もともに成長し、最初の卒業生を送り出すまでになった。だが、彼らの進路はまだわからない。

「ネパール式なので卒業が5月なんですね。日本の大学や専門学校を目指す卒業生たちは、浪人のような形で勉強している最中です」

 取材時はちょうど卒業間もない6月だった。ここから半年以上、受験勉強が続く。学制の違いから、タイムラグができてしまうのだ。モチベーションと学力をキープするのもしんどいだろうが、それでもIT系などで日本の一流大学に入れそうなレベルの学生もいるそうだ。自動車整備や介護など、資格を取得して手に職をつけられる専門学校からの引き合いもあるという。しかしその陰で、高い学力がありながら経済的な理由で進学をあきらめる子もまたいるのだそうだ。

「エベレストに行かせたい」
身を粉にして働く親たち

 そんなEISJがある荻窪のそば、吉祥寺。とある居酒屋の前で、威勢のいい女性の声が響く。

「いらっしゃい、いらっしゃーい!」

 夕暮れどき、仕事を終えた人々に呼び掛けているのはネパール人の女性だ。

「2階、空いてますよ」「料理なんでもおいしいよ」「4名様、広いテーブルあるよ」

 妙に調子がよくて愛嬌たっぷりだからか、それじゃあと店に吸い込まれていくスーツ姿のおじさんたち。かと思ったら、通りの人の流れが途絶えたのを見て、店内に戻ってビールや料理をサーブして回る。なんともよく働くのだが、彼女もまたカレー屋のコックの妻だ。EISJに子供を通わせているが、ダンナの稼ぎだけではとうてい足りない。

「だからこうやってがんばってるんじゃん。エベレスト、お金高いからね」

 週に28時間という制限の中でアルバイトをし、学費を稼ぐ。いまは上の子だけがEISJに通っていて、下の子は幼稚園だ。卒園後はどうするべきか。2人ともEISJで学ばせたいが、就労制限がある「家族滞在」では、これ以上の収入を得るのは難しい。悩みどころなのだ。

 彼女のように、子供のために身を粉にして異国で働く親がいる。無理をしてでもEISJに行かせたい。英語力をつけて、自分たちよりも高く羽ばたいてほしい。この学校は日本で生きるネパールのカレー移民たちにとって、さまざまな懸案はあっても現時点での最高の教育機関であり、希望を次の世代に託す象徴でもあるのだ。